医薬品開発における非臨床試験から一言【第54回】

 

トランスポーターを介した相互作用


能動輸送を支配しているトランスポーターについては、本稿の第20回で薬物動態との全般的な関係を報告し、薬物相互作用(DDI)も含めています。今回は、DDIに特化してトランスポーター研究を示し、尿中排泄あるいは胆管系輸送におけるDDI、in vitroでのDDI試験、吸収に関わるDDIなどをまとめました。

腎臓での尿中排泄では、尿細管に分布するトランスポーターに関連したDDIが知られています。近位尿細管上皮細胞の血管側には、OAT1(Organic anion transporter 1)、OAT3及びOCT2(Organic cation transporter 2)など、薬物を血中から近位尿細管上皮細胞へ取込むトランスポーターが発現しています。これらが阻害されると、基質となる薬物の血中濃度が上昇し、安全性に影響を与えます。

尿管側には、P-gp(P-glycoprotein)、BCRP(Breast cancer resistance protein)及びMATE1(Multidrug and toxin extrusion 1)、MATE2-Kなど、薬物を尿中へ排出するトランスポーターが発現しています。これらが阻害されると、基質となる薬物の血中濃度が上昇、又は血中濃度に変化がなくとも、近位尿細管上皮細胞中の薬物濃度が増加して、安全性に影響を与えます。

非臨床試験では、被験薬がトランスポーターの基質/阻害薬かを研究し、臨床DDI試験を実施すべきか否かを判断します。対象となる取り込みトランスポーターは、前述のOAT1、OAT3及びOCT2などです。一方の排出トランスポーターは、P-gp、BCRP及びMATE1、MATE2-Kになります。また薬物を輸送するその他のトランスポーターとして、近位尿細管上皮細胞の尿管側に発現し、近位尿細管上皮細胞から尿中へ薬物を排出するMRP2(Multidrug resistance-associated protein 2)やMRP4等が存在します。これらのDDIの考え方は、ICH M12のハーモナイズに注目しています。

肝胆系輸送におけるDDIをまとめます。肝細胞の血管側には、血中から肝細胞中へ薬物を取込むトランスポーターが発現しています。一方、胆管側には、肝細胞中から胆汁中へ、薬物の未変化体又は抱合体等の代謝物を排出するトランスポーターが発現しています。そして、トランスポーターの活性に影響を与える薬物の併用によりDDIが生じる可能性があります。

肝細胞の血管側に発現し、薬物を血中から肝細胞中へ取込むトランスポーターのOATP1B1(Organic anion transporting polypeptide)及びOATP1B3が阻害されると、これらの基質になる薬物の血中濃度が上昇します。従って、被験薬がこれらのトランスポーターの基質又は阻害薬となるかを検討し、臨床DDI試験を実施すべきか否かを判断します。

肝細胞の胆管側に発現した排出トランスポーターとしては、OATP類、MRP2やBSEP(Bile salt export pump)などがあり、胆汁酸やビリルビン等の内因性物質の胆汁中排泄を行います。グルクロン酸抱合体等は、胆汁中排泄の後に消化管内で腸内細菌により脱抱合され、未変化体として再び消化管より吸収(腸肝循環)されます。これらのトランスポーターが薬物により阻害を受けると、内因性物質の血中又は組織中濃度が上昇することになります。そのため、抱合体の胆汁中排泄にDDIが生じた場合は、未変化体の血漿中での滞留時間やAUCに影響がみられます。

DDIの検討において汎用される非臨床でのin vitro 試験において考慮すべき事項をまとめます。一般的に、典型基質、典型阻害薬を用いたin vitro 試験を実施し、トランスポーターを介したDDIの評価では、被験薬と類似した構造の薬物から得られた知見が役立ちます。また構造が類似した代謝物も併用薬とDDIを起こすため、必要に応じてトランスポーターとのDDIを検討すべきです。

臨床DDI試験を実施するための非臨床試験での判断をまとめます。被験薬の薬物動態に関わると推定されたトランスポーターについて、その能動輸送の機能が確認されたin vitro試験系で、被験薬の評価を行います。被験薬について、トランスポーターの基質及び阻害薬となる可能性を検討するための臨床DDI試験を実施するか否かをin vitro試験データ等に基づくカットオフ基準によって判断しますが、トランスポーターの情報は代謝酵素と比較して限られており、科学的知見にも注意します。
 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます