ドマさんの徒然なるままに【第65話】原点回帰・Part 1

第65話:原点回帰・Part 1

全体のはじめに
「原点回帰」、皆さんも何度か耳にしたことのある言葉で、何となくわかったつもりでいる言葉かと思います。辞書によれば、その意味は『物事の出発点や基本に戻ることであり、「原点」には長さなどを測るときの基準となる点という意味の他に、物事を考えるときの出発点という意味がある。また「回帰」は、一回りして元のところに戻ることを意味する。』とのことです。

この15年、GMPもPQSが加味され、そのインテグレートした(integrated)形での運用が求められるようになりました。別の表現をするならば、よりソフィスティケート化した(sophisticated)ようにも見受けられます。“そもそも論”を論じるつもりはありませんが、「医薬品って何ですか?」という質問に対して、皆様はどう答えますか? このGMP Platformアーティクル読者の大半は、医薬品の、しかも品質関係の方なんじゃないでしょうか。そんなことから、一度原点に戻って、「医薬品(クスリ)って何なんだ?」、「クスリの品質って何なんだ?」ということを、筆者自身の勉強し直しのつもりで整理してみました。事務局のご厚意により3週連続の計3回にわたってお伝えしたいと思いますので、一緒に勉強しませんか。


第1章:基本
まずは、基本中の基本として、本邦の“クスリ関係の法律”と言える「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下、薬機法)」*1に規定されている定義をおさらいしましょう。

ちょっと失礼な言い方とはなりますが、(筆者も含めて)GMP関係者って、GMP省令*2や関係通知等は読んでも、薬機法そのものを読むことなど、ほとんど無いんじゃないですかね。実は、薬機法の第二条は「定義」の条項で、「医薬品」を筆頭に本法律に関係するものの定義が記載されています。別に記憶する必要はないですが、薬機法に規定されているということは覚えておきましょう。参考までに、薬機法第二条第1項「医薬品」と第2項「医薬部外品」の定義を以下に示します。

第二条 この法律で「医薬品」とは、次に掲げる物をいう。
一 日本薬局方に収められている物
二 人又は動物の疾病の診断、治療又は予防に使用されることが目的とされている物であって、機械器具等(機械器具、歯科材料、医療用品、衛生用品並びにプログラム(電子計算機に対する指令であって、一の結果を得ることができるように組み合わされたものをいう。)及びこれを記録した記録媒体をいう。)でないもの(医薬部外品及び再生医療等製品を除く。)
三 人又は動物の身体の構造又は機能に影響を及ぼすことが目的とされている物であって、機械器具等でないもの(医薬部外品、化粧品及び再生医療等製品を除く。)
 
2 この法律で「医薬部外品」とは、次に掲げる物であって人体に対する作用が緩和なものをいう。
一 次のイからハまでに掲げる目的のために使用される物(これらの使用目的のほかに、併せて前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であって機械器具等でないもの
イ 吐きけその他の不快感又は口臭若しくは体臭の防止
ロ あせも、ただれ等の防止
ハ 脱毛の防止、育毛又は除毛
二 人又は動物の保健のためにするねずみ、はえ、蚊、のみその他これらに類する生物の防除の目的のために使用される物(この使用目的のほかに、併せて前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物を除く。)であつて機械器具等でないもの
三 前項第二号又は第三号に規定する目的のために使用される物(前二号に掲げる物を除く。)のうち、厚生労働大臣が指定するもの

 

第2章:定義されているのは「医薬品」と「医薬部外品」だけじゃない
当たり前ですが、薬機法に定義されているのは、「医薬品」と「医薬部外品」だけじゃありません。「医薬品」に分類されるものであっても、その由来によっては「生物由来製品」「特定生物由来製品」に、その用途や指定によっては「希少疾病用医薬品」「先駆的医薬品」「特定用途医薬品」に分類され、定義されています。

医薬品の定義も区分も各国での法的分類は異なりますが、この日本においては、「医薬部外品」(英語ではQuasi Drug)なる分類のものもあります。筆者の知る限りなので、間違っているかもしれませんが、欧米においては、本邦の「医薬部外品」に相当する法的区分はなく、所謂「OTC医薬品」に相当するものとして扱われているようです。「医薬部外品」、前章に示した薬機法の定義を簡単に言ってしまえば、「医薬品」や「化粧品」には当たらないもので、人体に対する作用が緩和で機械器具でないものを指します。

また、動物用医薬品*3は除外するとして、人に使用するものとしては、「化粧品」や「サプリメント」といったものもあります。後者のサプリメントについては、本邦では食品扱いで、その管轄も消費者庁です*4

「医薬品」の定義内に記載されている機械器具等の範疇であれば、「医療機器」があります。「医療機器」は、さらに「高度管理医療機器」「管理医療機器」「一般医療機器」「特定保守管理医療機器」に分類され、定義されています。

さらに言えば、これらの範疇に含められない「体外診断用医薬品」もあります。ちなみに、「体外診断用医薬品」は本邦では(法的分類では)医薬品扱いですが、海外では“In Vitro Diagnostic”や“In Vitro Diagnostic Medical Devices”、略して“IVD”と称した医療機器扱いです。

それに加えて、「再生医療等製品」なる医薬品とも医療機器とも異なる医療製品まで出現したことで、旧薬事法の名称さえも変更せざるを得なくなったと言えます。

他に、切り口が異なりますが、「指定薬物」と定義されるものがあります。中枢神経系の興奮もしくは抑制または幻覚の作用といった精神毒性があるということでの分類に該当するものであり、麻薬、覚醒剤、大麻、向精神薬等があります。

薬機法の第二条においては、全部で18項目が定義されていますので、興味があれば、一度見てみてください。


第3章:医薬品とは? その品質とは?
この問いかけは、筆者が務めるセミナーの冒頭で受講者に対して投げかける質問です。具体的には、あなたのお隣に住むおばちゃんに「あなた、クスリ屋さんに勤めているのよね?」、じゃー「クスリって何なの?」、「クスリの品質って何なの?」と尋ねられたら、あなたはどう答えますか? というものです。

正解が何かを問うものではありません。あくまで医薬品関係の仕事に従事している者として、この質問に対して回答する義務がある、と言いたいだけです。それが製造・試験検査であれ、販売であれ、あるいは保管や配送といった業務であれ、自分が取り扱う医薬品をどのように捉えているか、少なくともそのイメージだけでも持っているか、を問うものです。GMP・GDP・PQSだ、品質保証だ、ましてQuality Cultureだ、と言う前に、自分が取り扱う医薬品とはどういうものなのか、も知らずに取り扱うことが如何に怖いことかを認識して貰いたいと思います。医薬品(以下、漠然と医薬品と記した場合は、医薬部外品も含めて論じています)がどういうものかを認識することで、その品質の重要性を、また承認事項との齟齬や乖離、まして不良等が生じれば、その重大性(事の大きさ)を認識でき、保証に繋がるのではないかと思うのです。

筆者のイメージ(正解ではない)を図1に示しました。筆者の言いたいことは、医薬品における品質は、一般的な解釈やイメージで捉えられている品質、変な言い方をすれば、“独立した品質”として存在しているのではなく、安全性と有効性の担保のために存在し、患者への健康被害に直結しているということです。


図1:筆者のクスリのイメージ


第4章:医薬品の安全性と有効性は投与する前には分からない
一方で、不幸なことに医薬品の安全性と有効性は投与する前には分からないのです。医薬品というシロモノ、人に投与されて初めて効能・効果が現れます。そのため、投与前の事実がすべてを物語ることになります。治験での統計学的調査は、個人差も踏まえその安全性と有効性を調査することで、当該医薬品の科学的妥当性と有用性をチェックしています。医薬品の品質とは、そういった治験の最終段階と同等もしくはそれ以上であることが前提なのです。そうでないと、安全性と有効性が担保出来ないのです。逆に言えば、投与前に(承認規格として)評価可能なのは品質だけということになります。そもそも承認書記載事項は、治験を含む医薬品開発という作業を通じて取得した安全性・有効性・品質のデータの編纂集です。規制当局が何故に承認事項との齟齬や乖離を問題視するかはそこにあります。承認書との相違は、治験段階での安全性・有効性を担保出来ない可能性を意味します。投与される患者の立場に立てば、不安でしかありません。さらに言えば、ロットごとにバラツキなどあれば、患者として許せないですよね。だからプロセスバリデーションをして十分に検証しておいて欲しいと思うのです。筆者のこのイメージを図2に示しました。


図2:品質と安全性・有効性との違い

言われてみれば当たり前のことなのですが、こういう単純な基本的なことを忘れがちなのも事実です。率直に申しあげますが、GMPの教育訓練と称してGMP省令の条項を読み上げたり覚えさせることよりも、もっと大事なことがあると思っています。Quality Cultureの根幹は、こんなところにあると言ったら失礼でしょうか。


第5章:医薬品と一口に言っても、医療用だけじゃない
医薬品の分類一覧を図3に図示しました。医薬品の全体像や類似しているものの医薬品ではないものとの関係が理解しやすいように、「医薬品」以外の医療製品や「サプリメント」も挙げています。そのうち「医薬部外品」はPart 2に、「化粧品」「サプリメント」については、Part 3で説明します。


図3:医薬品の分類

読者の皆さんは、「医療用医薬品=処方せん医薬品」と思いがちですが、「処方せん医薬品以外の医療用医薬品」もあるのです。原則的には、医療用医薬品は処方せんに基づいて処方・販売されるものですが、なかには、「処方せん不要で処方せん医薬品と同様に、医療用医薬品として医師、薬剤師等によって使用されることを目的として供給されるもの」があります*5。俗に「零売(分割販売)」と言われたりもします。

また、「医療用医薬品」以外はすべて「一般医薬品=OTC医薬品」と思いがちですが、「要指導医薬品」と称される分類のものがあります。いわゆるスイッチ直後品目等が該当し、医療用に準じたカテゴリーの医薬品として、処方せんは不要ですが、薬剤師の説明による手渡しが求められます*6


第6章:そもそもいくつ種類(剤形)があるんだ
剤形の種類は、その投与方法により主に内用剤、外用剤、注射剤の3つに分けられ、それらの各分類の中には様々な剤形のものが存在します*7

さらに、注射剤ひとつを取ってもアンプルやバイアルといった違いがあり、内服固形製剤と言っても、形状・サイズ・色、さらに二次包装の違いまで言えば、無数とも言えます。

ザーッとですが、代表的な剤形をビジュアルで図4に整理しました。


図4:医薬品(クスリ)の代表的な種類


Part 1のおわりに
いかがでしたでしょうか。最近の製薬会社(ここでは製造販売業者)はこのような基本的な話を入社時の新入社員への研修や基礎教育として実施しているのか否か、筆者は存じませんが、筆者自身、45年も前のことですが、教わった記憶はありません。次話Part 2では、医薬品および医薬部外品の品質とその法規制の観点での基本事項を中心に話を進めたいと思います。


では、また。See you next time on the WEB.



【徒然後記】
原点回帰シリーズ執筆秘話・1
今回の「原点回帰」のシリーズ、実は、昨年の時点で構想は練っておりました。医薬品だけでなく、医薬部外品、化粧品やサプリメントも含めた全体像についての話であり、医薬品そのものとの違いを説明したかったのです。ところが、本年3月に小林製薬の紅麹事件が発覚したことから、本事件のための執筆と誤解されるのが嫌で、構想を破棄するか or 内容を変更しようか悩みました。小林製薬の紅麹事件そのものについては、他の先生がアーティクル等で取り上げることは明白であり、この「ドマさんの徒然なるままに」の“読み物”とした元々の趣旨に反するからです。一方で、本シリーズ構想の背景には、他の理由からその必要性を感じていました。その理由については、次話Part 2の徒然後記で紹介します。
--------------------------------------------------------------------------------------

*1:薬機法「医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=335AC0000000145

*2:GMP省令「医薬品及び医薬部外品の製造管理及び品質管理の基準に関する省令」https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416M60000100179

*3:薬機法の規定に基づき農林水産大臣が定めた「動物用医薬品等取締規則」第1条に「専ら動物のために使用されることが目的とされている医薬品をいう」と定義されています。
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=416M60000200107
また、農林水産省による「動物用医薬品とは」というタイトルの紹介サイト(令和3年12月時点)は以下の通りです。
https://www.maff.go.jp/j/syouan/tikusui/yakuzi/attach/pdf/index-10.pdf

*4:「化粧品」と「サプリメント」については、Part 3で説明する予定です。

*5:厚生労働省「処方箋医薬品以外の医療用医薬品の販売について」(令和5年2月22日付け)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001061771.pdf

*6:厚生労働省「一般用医薬品等(OTC医薬品)の在り方について」(令和6年2月9日付け)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/001206970.pdf

*7:[参考]「医薬品製造の基礎知識」
https://industrymedicine.com/c1/31.html

 

 

執筆者について

経歴 ※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

連載記事

コメント

コメント

投稿者名必須

投稿者名を入力してください

コメント必須

コメントを入力してください

セミナー

eラーニング

書籍

CM Plusサービス一覧

※CM Plusホームページにリンクされます

関連サイト

※関連サイトにリンクされます