再生医療等製品の品質保証についての雑感【第60回】

 

第60回:生産計画におけるキャンペーンの考え方と製造環境の管理 (6)


はじめに
 ここまで、清浄化(清掃作業)を伴わずに次工程を開始できる条件は、「(残留物に関する)動態の制御」および「(次工程に)影響が生じることの否定」ができる工程開発とその検証であることをお話しし、前回は、前者の「動態の制御」について、残留物として想定される、飛沫(液滴)の発生機序とその制御の考え方に関する論文を紹介しました。今回は、無菌操作に関するガイドライン2022のAPPENDIX「A4. 清浄化を伴わないチェンジオーバーの運用に関わる製造装置の設計・検証事例」における、適格性評価(構造設備の気流設計と検証)手順について、以下に概説します。


●要求仕様と機能仕様
 清浄化を伴わずにチェンジオーバーを実施可能な運用の要求仕様は、ガイドラインのフローより、次のようになります。① 前工程作業終了時において、作業環境の清浄度レベルが維持・継続されていること。② 次工程において、前工程作業中に発生・残留する物質(培地等、工程資材由来の残留物)が作業(作業者の所作)によって製品に影響(交叉による混入)を及ぼさないこと。および、③ 継続的に、残留物由来の物質(再浮遊物)が作業中の製品に影響(作業者の手指や器具等をではない混入)を生じさせないことです。このうち①については、無菌操作法により要求仕様が達成できることを前提とし、本事例では議論せずに進めました。
 ②の要求仕様を満たす機能仕様としては、残留物(飛沫)動態の制御と、残留物と接触しない作業のプロセスパラメーター設定であると考えます。前者は、理想としては液滴を発生させない吐出条件ですが、液滴の発生をゼロとできないならば、飛沫の落下範囲が予測可能となる値の決定が必要と考えます。後者は、そもそも作業のセオリーとして、作業者の手指が無菌の部位に直接触れることはなく、またグレードA区域の床面や壁面などに不用意に触れることもなく、前工程の残留物が交叉するリスクは限りなく低いと考えます。他方、手操作ではリスクを完全に回避できる手順を示すことは難しいので、本事例では、機械操作の製造システムを採用し、機能仕様を決定しました。(詳細は割愛されています。)
 ③の機能仕様では、容器を開放する作業時において、残留物が付着する床面あるいは壁面から浮遊しても容器内に混入することがない、気流管理が要件となります。本事例では、③の要求仕様・機能仕様に対して、設計仕様と適格性評価を実施し、清浄化を伴わないチェンジオーバーを実施可能な妥当性を有することを検証しています。

●クリティカルゾーン
 ③の要求仕様・設計仕様を満たす設計仕様をする上で、「クリティカルゾーン」の理解と設定が不可避となります。クリティカルゾーンは、PIC/S GMP Annex I(無菌医薬品の製造)に示される用語で、本事例作成時はドラフト版の最終改訂版発行前であったため、「重要対象領域」と記していますが意図は同じです。
 グレードA区域は、概して一方向流で管理することが要求されていますが、実際には、床面などで乱流が生じるなど、真に一方向流が維持される空間は限定的です。クリティカルゾーンは、HEPAフィルタから供給された無垢な空気(first air)が乱れなく一方向に流れる、高度な気流管理を恒常的に保証できる空間領域を指します。無菌製品の容器の開放は、必ずクリティカルゾーンを確保し実施する必要があります。また、クリティカルゾーンで作業を実施する場合は、その領域および上流(風上)に無菌でないものをかざすことはできません。
 

 

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