新・医薬品品質保証こぼれ話【第48話】

2024/03/15 品質システム

“点検”と“改善”。

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話
 

“点検”と“改善”

自民党派閥の“裏金づくり”の問題は政治倫理審査会(政倫審)においても決着を見ず、今なお(2024.3.10現在)国会審議の中心課題の一つとされ、虚しい問答が繰り返されています。この状況が国民の目にどう映っているか、また、この混沌としたご時世に、国政として“何を最も議論すべきか”といったことを真剣に考えれば、自ずと解決の方向性も定まると思われますが、“保身”のための自己弁護に頭の中は一杯のように見え、暫くはこういったことが期待できそうにありません。しかし、この“裏金隠し”が“脱税”に当たるとする向きが、確定申告に際し強い不満を吐露し、申告手続きの現場に支障を来すなど、影響も無視できない状況です。

この問題に関しては、①本事案に手を染めたすべての議員の名前、②“裏金”の金額、③使途と残金の在り処の3点について厳正に“点検”の上、全容と経緯を明らかにし、法に照らした処分がなされない限り、野党議員のみならず、多くの国民の理解が得られないでしょう。また、このような対応経過を辿らなければ、この問題に限らず、未だ留保されている“文通費”(“文書通信交通滞在費”、現在の呼称は“調査研究広報滞在費”)の問題など、国民感覚とかけ離れた、国会議員の特権たる悪しき慣行の“改善”も進まないでしょう。

上記の政治の問題に限らず、重大な問題が発生した場合には適正に“点検”を行い、発生した事象の全容把握とその原因を解明しない限り、“改善”は望めません。医薬品の製造や品質管理に関しては、“承認書と製造実態の齟齬”の問題に際し、繰り返し“点検”が行われてきました。しかし、この“齟齬”に関連して発生する“違法製造”が未だあとを絶たず、先般(2024.3.1)、厚生労働省(医政局医薬産業振興・医薬情報企画課)より、「後発医薬品の安定供給等の実現に向けた産業構造のあり方に関する検討会」に対し、改めて、後発医薬品の製造販売承認を保有するすべての企業(約200社)に“自主点検”を行うよう要請が行われるという状況にあります。

“自主点検”や“内部監査”に限らず、他者が行う “企業監査”や“行政査察”なども含め、すべての点検行為は“厳正かつ的確”でないと意味をなさないことは、この数年に繰り返し行われた“点検”の結果が示唆しているのではないでしょうか。特に、“自ら行う点検”においては“厳正を欠く傾向”が否めないことから、特段の注意が必要です。とりわけ、“縦組織における職位の階層を超えて”、関係する職員のすべてが“品質第一(Quality First)”に“遵法性”と“科学性”を旨に業務を遂行し、これを日常業務の中で習慣化することが、“厳正さ”を保つ上において最も重要と考えられます。

一方、点検の“的確さ”はGMP省令に規定の各要件に対する関連業務の実施状況を、関係の記録やデータに基づき詳しく確認することが基本となりますが、中でも、“違法製造”に関わる“製造と試験の方法・手順”に関して、実際に実施されている内容が製造販売承認書(承認書)の記載内容と整合しているか否かを、製造方法および試験方法の手順書・指図書・記録書と照合し、子細に確認することが重要です。この際の“齟齬の有無の見極め”がポイントになるわけですが、解釈・判断に迷う場合は関係者(特に薬事・品質保証の関係者・責任者)に相談し慎重に判断することが大切です。
 

 

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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