最新コスメ科学 解体新書【第3回】

2024/03/01 化粧品

化粧品とSDGs

化粧品とSDGs

 いま、多くの化粧品メーカーが持続可能な開発目標、いわゆるSDGsに取り組んでいます。その取り組みは10年ほど前から始まっていました。ただ、当初は化粧品をつくり、現場に輸送する製造・物流プロセスを効率化して二酸化炭素の排出量を減らしたり、容器のリサイクルを進めたり、マイクロプラスティックのもとになるスクラブ剤を天然由来のものに置き換える、というようなものだったのですが、最近ではいよいよ化粧品の中身、いわゆる処方をSDGs対応することを各社が宣言しています。例えばユニリーバは2030年までに100%の原料を生分解性にすることを、資生堂も2025年までに持続可能な原料を用いることで環境への負荷を低下することを目的として挙げています1)。どうもこの動き、かなり本気らしく、化粧品メーカー、特に世界でビジネスを展開しているメーカーのみなさんにお会いすると、口をそろえてどうしたものか、なんて頭を抱えているのでした。

 この課題、一見、そんなに難しくないようにも見えます。とにかく原料を天然由来のものに置き換えればいいじゃないか!なんて思う方も多いのではないでしょうか?しかし、ことはそんなに単純ではありません。なにしろ、化粧品原料には毒性や皮膚への刺激が低いことが求められます。ちょっと意外に思われるかもしれませんが、植物をはじめとする天然由来の原料は、この安全性を担保するのが難しいのです。天然由来の原料は、一般にさまざまな成分の混合物で、ほんの少しだけ含まれている微量成分まで完全にその組成を明らかにし、安全性を確認することは、その道のプロでもなかなか難しいことなのでした。世の中を騒がせた化粧品のトラブルの多くは、その主成分ではなく、最新の分析装置を駆使してやっと検出することのできるようなわずかな成分が原因だったりするので、微量だからと言って無視することはできません。そんな制約のある中で、化粧品としてのスキンケア・メイクアップ効果や使い心地を落とさずに成分の置き換えを成し遂げるのは、なかなか難易度の高いパズルと言わざるを得ないのでした。

 一方この流れ、化粧品メーカーに原料を納めているいわゆる原料メーカーにとっては、一大チャンスということもできます。なにしろ、これまで市場の中で大きな存在感を示していた石油由来の油剤やシリコーンやフッ素を含むもの、さらにはエチレンオキサイドを含む界面活性剤など、化粧品や身体洗浄料の屋台骨を形作っていたアイテムがのきなみ何らかの制限を受けようとしている昨今は、どちらかといえば保守的な化粧品原料のマーケットのプレイヤーがごっそりと入れ替わりかねない、ゲームチェンジの瞬間ともいえるのでした。

 

 

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執筆者について

野々村 美宗

経歴

山形大学 学術研究院化学・バイオ工学分野 教授 博士(工学)
花王株式会社において化粧料および身体洗浄料の商品開発に従事した後、山形大学に赴任。2017年より現職。専門は物理化学、界面化学、化粧品学。これまでに生体表面における界面現象のダイナミクス、界面活性剤を用いたエマルション・可溶化物・泡製剤の開発、化粧料・食品の触覚/食感センシングについて研究してきた。著書に『教授にきいた・・・ コスメの科学』、『化粧品 医薬部外品 医薬品のための界面化学』(ともにフレグランスジャーナル社) などがある。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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