再生医療等製品の品質保証についての雑感【第58回】

第58回:生産計画におけるキャンペーンの考え方と製造環境の管理 (4)


はじめに
 前回では、細胞加工製品製造の各工程の作業終了時においては、必ずしも清掃は必要無いのでは、というお話しをしました。理由として、作業時に床面などに落下した残留物(培地等)は、クリティカルゾーンには影響しないこと、また作業者は床面等には触れてはいけないので、理論上は、交叉汚染は生じないことです。しかしながら手操作の作業では、誤操作のリスク管理など、実現に向けた様々なハードルも想定されます。そこで、先ずは機械操作で考えましたので、その概要をご紹介します。
 本稿は、経済産業省/AMEDの開発ガイドライン「再生医療等製品(遺伝子治療用製品を除く)の製造で使用する設備・装置における無菌操作に関するガイドライン2022(手引き)」(令和4年11月公表)のAPPENDIX「A4. 清浄化を伴わないチェンジオーバーの運用に関わる製造装置の設計・検証事例」に関する検討をベースにお話しします。


●細胞加工における作業環境の位置づけ(私見)
 細胞加工製品を製造する細胞加工において、グレードA環境で実施する、培地交換や継代作業は、以前(第32回など)でもお話ししましたが、主工程(バイオプロセス)のプロセスパラメータを制御することが目的の部分工程(ユニットプロセス)です。筆者は、ベルトコンベアに流れる製品を順次処理する作業と近似のイメージを有しており、もしそういったライン設計が可能であれば、本来、作業ごとに清掃を行うことでラインを止める選択はしなかったと考えます。そもそも、作業環境が筐体(安全キャビネット)の形をしていなければ、本来は用時で清掃することを必ずしも必須の選択肢とはしなかったのではと思います。
 現状の細胞加工に対応した工程開発では、培地交換などの作業が1~2日毎で実施されるなど、稼働効率が悪いためか、あるいはバイオの研究者(ラボの常識)に引っ張られてしまうためか、作業後毎に清掃を行うことが当たり前となっています。しかしながら、主工程が継続している前提で、しかも無菌操作環境が継続する作業領域であるのに、環境継続にリスクのある、清掃手順を採用することはリーズナブルな設計方針ではないと認識します。もちろんその作業環境が、清掃後に環境モニタリングを実施され、次の作業前に無菌操作環境の再構築を確認できているのであれば何の疑問も生じませんが、現状ではデメリットも多く、現実的な運用の提販は難しいと思います。


●清掃(清浄化)を伴わないチェンジオーバーの運用に関わる妥当性検証の考え方
 ならば、実際に清掃を伴わないチェンジオーバー判断の事例を示そうとのことで、当研究室の未来医療 システムデザイン(澁谷工業)共同研究講座で実施しました。それが、上述した無菌操作に関するガイドライン2022のAPPENDIX「A4. 清浄化を伴わないチェンジオーバーの運用に関わる製造装置の設計・検証事例」の作成に関する検討です。
 前回ご紹介したチェンジオーバーに関するガイドライン2019の図における清掃、すなわち専用の手順による「環境維持操作」を伴わず、工程を終了した後にそのまま次工程を開始できるのは、同図の「維持できる工程・運用」が、同ガイドラインの「無菌操作環境が維持されている」に分類され、かつ「残留物による継続への影響」が否定(継続)できることを検証する必要があります。そのためには、のように、ガイドラインの「維持できる工程・運用」(図左)が、図右の1) 環境に残留する発生物の動態の制御が可能であること、2) 想定される残留物が次工程(製品)に影響を及ぼすことを否定できること、これら2つを満たすことを検証する必要があると考えました。 


図.  清浄化を伴わないチェンジオーバー実施に向けた残留物による継続への影響に関する検証フロー
(越田一朗. 医療機器等ガイドライン活用セミナー♯26 (2021) 発表資料より)

 

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