あなたの失敗談 医薬品開発・製造‐失敗から何を学ぶべきか

2017/09/15 製剤

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はじめに
 “失敗”、誰もが経験する、しかし最も聴きたくないいやな言葉の一つである。実はこの失敗からわれわれは多くのこと学び、そして成功へとつなげてきたのである。その有名な例としてノーベル賞の受賞につながった白川英樹先生の伝導性プラスチックの発見がある(図1)。では、なぜ失敗が嫌われるかであるが、それは“叱られる”、“評価が下がる”、“経費が無駄になった”などがあるからであろう。したがって、人によっては失敗をまったく気にしない人もいる。残念ながら筆者はそこまで精神的には強くなく、失敗するたびに結構参ってしまう。しかし、幸いにも忘れるという人としての特徴があり、何とかやってくることができた。GMP三原則の中にも、“人による間違いを最小限にする”が含まれているが、もちろん、GMPのどこにも失敗した人に責任をとらせて評価を下げろなどとは書かれていない。GMPでは失敗を繰り返さないようにするために、その原因を追究し(根本原因調査:Root Cause Analysis(RCA))、そしてしっかりとした対策を立てることが求められている。そして、CAPA(予防処置・是正処置)が図られることになるが、この目的は、“再び同じ失敗(逸脱)が起こらないようにする再発防止と別のところで同様の逸脱(失敗)が起こるのを防ぐ(予防処置)”である。前者は理解しやすいが、予防処置の場合には同じ逸脱だけを対象にしている感があり、まだ経験していない逸脱をも含めた予防処置となっているわけではない。では、起こる可能性のある失敗に対して、起こってからの予防ではなく、起こる前に何か対策を講ずることはできないのだろうか。それこそ、まさに本稿の目的とするところである。これまで多くの技術者がいろいろな場面で経験した失敗を共有することで、製剤開発や製造現場での失敗を防ぐための予防処置につながるものと考えてのことである。本稿で紹介する失敗は、著者の限られた経験の中での失敗であるが、少しでも多くの方の参考にして頂けたらと願っている。

 


図1. ノーベル賞につながった失敗

 


失敗のデータベース化
  “はじめに”で述べたように、製薬各社はCAPAやRCAを通して得られた情報をデータベース化しているが、それは類似の失敗(逸脱)であり、新たなシステムや装置・手順が導入された時の予防に役立つかどうかは疑問符がつく。現場では、“横展開”と“Risk評価”という言葉を使ってこうした事態への対応を図っているが、ヒューマンエラーが逸脱の大きな要因となっていることから、実質的に起こってみるまではわからないというのが実情であろう。したがって、そうした会社を超えた情報共有が可能となれば、まだ発生していない逸脱(失敗)を防ぐことにつながる有用な情報となる。製薬関係業界ではないが、過去に発生した重大な事故や失敗をデータベース化しようとする取り組みがいくつか行われている。その代表的な取り組みを3つ紹介する。

 

(1) 失敗学会における失敗データベース(図21)
“生産活動には、事故や失敗は付き物である。これら、事故や失敗は小さなものから、経済的損失につながるもの、 負傷を伴う大きなもの、さらに多数の死傷者を出す大規模なものまである。「失敗学」は、こういった事故や失敗発生の原因を解明する。 さらに、経済的打撃を起こしたり、人命に関わったりするような事故・失敗を未然に防ぐ方策を提供する学問である”と失敗学会のホームページ(HP)で定義されており、まさに業界を超えて失敗から学ぶことが目的とされている。その失敗学会では、各業界における大きな失敗の事例を集めてHP上で公開しているが、たとえば、2007年に発生したエキスポランド、ジェットコースター事故をはじめとして、大きな事故について、その原因や背景にあるものをなどについて詳細に解説されている。ぜひ、見ていただきたい。
 


図2. 失敗学会のホームページ

 

(2) 科学技術振興機構(JST) /畑村創造工学研究所による失敗のデータベース
JST)も、本年3月23日から“失敗知識データベース”を無料で公開している(図3)が、実際にこのデータベースを見ようとすると、畑村創造工学研究所(東京大学名誉教授畑村洋太郎先生が運営)の“失敗知識データベース”(図42)が現れる。このデータベースでは16分野に分けて失敗事例がまとめられているが、たとえば、製薬関係では1998年に発生した“製薬工場においてビタミン剤を乾燥中に気化したエタノールの排気不全による爆発”が含まれている。
 


図3. 畑村創造工学研究所による失敗知識データベース

 


図4. 科学技術振興機構(JST)の取り組み

 
(3) 厚生労働省のヒヤリハットのデータベース(図5
1つの大きな失敗の前には、小さな失敗が29、更にヒヤリとする事例が300件も発生しているというハインリッヒの法則(図6)がよく知られているが、このヒヤリハットの段階で原因を追究し対策を講ずることで大きな事故や失敗を防ぐことにつながる。厚生労働省の“職場のあんぜんサイト” 3)には、こうしたヒヤリハットが収集されているので、ぜひ参考にして頂きたい。

 


図5. 厚生労働省のヒヤリハットサイト

 


図6. Heinrichの法則

 
 著者が確認した限り、こうしたデータベースは大きな事故や失敗が中心となっており、医薬品製造現場や開発現場で発生する逸脱(失敗)やトラブル(ヒューマンエラー)については、ほとんど取り上げられていない。従って、今後製薬業界としてこのようなデータベース化を検討することも重要だと考えているが、いかがであろうか。
なお、こうした失敗のデータベースを作成する場合に必要となる要素について、畑村氏は次の6つの要素を挙げている4)。① 事象(どんなエラーであったのか)、② 経過(時間とともにどう進行したか)、③ 原因(推定された原因)、④ 対処(どう対応したか)、⑤ 総括(発生した失敗のまとめ)、⑥ 教訓(発生した失敗から何を学ぶべきか)

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執筆者について

宮嶋 勝春

経歴

新潟県柏崎市出身。1979年、ゼリア新薬工業㈱入社以降製剤開発を担当し、2000年テルモ㈱研究開発センター、2006年奥羽大学薬学部(製剤学・薬剤学担当)、2008年武州製薬㈱製造技術部に所属、2017年6月現ナノキャリア(株)に入社した後、NANO MRMA(株)の顧問として今日に至る。なお、この間、2年半米国ユタ大学薬学部に留学を経験した。
これまでの期間に、製剤開発から大学での薬学教育までを、そして内服固形製剤、DDS、無菌製剤の開発と幅広く医薬品開発にかかわってきた。特に武州製薬㈱では、FDAをはじめとする各規制当局の査察に対する回答者として、医薬品製造におけるGMPに対する理解を深めることができた。この経験を介して、洗浄バリデーションに関する執筆・講演や委受託製造に関する講演など行っている。現在は、また開発の現場に戻り、ミセル製剤の開発に取り組んでいる。趣味は映画鑑賞、天体観望などで、時間を見て楽しんでいる。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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