経皮吸収製剤 ~基礎から応用まで~【第3回】

2023/11/24 製剤

経皮吸収製剤のコンセプトを満たす薬物についてを解説する。

4.経皮吸収製剤に適した薬物の選択
第2回では経皮吸収製剤(全身性)の製品企画における製品コンセプトについて解説したが、今回はそのコンセプトを満たす薬物について考察する。
経皮吸収製剤を開発するにあたって最も苦労する事は、製品コンセプトに適した薬物において、どのような薬物でも皮膚を透過する訳ではない事である。これは経皮吸収製剤において角層がバリアとなり、薬効を発揮する十分な薬物量が全身循環血流に送達されていないからである。つまりどのような薬物でも角層を容易に透過出来る訳ではなく、むしろ限られた性質を有する薬物のみが過去に製品化に成功したに過ぎない。ほとんどの薬物において必要量(目標量)の薬物が皮膚を透過せず、またたとえ透過しても皮膚刺激が認められるなど、薬物スクリーニングでは困難を極める事がしばしばである。
図3には多くの総説や教科書で示されている経皮吸収製剤に適している薬物の性質を示す。

この中でも特に全身性の経皮吸収製剤として実用化されている製剤に含有されている薬物の特長のうち、分子量、融点及びLogP(オクタノール/水分配係数)に注目し、製剤面積とともに表1に示す。

表1 製品化された全身性経皮吸収製剤の製剤面積と主薬の特長

参考文献
肥後成人 Transdermal Drug Delivery Systemの最近の開発動向について、薬学雑誌、127(4), 655-662(2007)
Gosh et al   Transdermal and topical drug delivery systems, Interpharm Press (1997)
各製品の添付文書、インタビューフォーム

 

これらの薬物に共通していることは、一般的に次の(1)から(3)の特長を有する化合物である。
 (1)    分子量のほとんどは500以下
 (2)    融点は200℃以下
 (3)    LogPが1~4程度(適度な脂溶性を有する)
ただ、これらの物性を有する薬物が必ずしも皮膚を透過する訳では無く、最後は皮膚透過実験(in vitro, in vivo)で確認することになる。しかしながら、むやみやたらに薬物スクリーニングを行い、多大な時間とコストの浪費を避けるためには、ある程度机上でのpaper feasibility studyが重要であり、その指標として参考となる情報である。経口製剤では有名なLipinski‘s rule of fiveという経口バイオアベイラビリティーに優れた薬物を予測するための経験則がある。この経験則は、第Ⅱ相臨床試験まで到達した2245種類の薬物を解析した結果からの経験則であるが、経皮吸収製剤では商品化に成功した薬物数はまだまだ少なく、今後より多くのデータの蓄積を期待したい。

 

 

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執筆者について

山内 仁史

経歴

1981年第一製薬株式会社(現第一三共株式会社)に入社。研究所 製剤研究センター配属となる。株式会社ディ・ディ・エス研究所、埼玉第一製薬株式会社研究部に出向し、その後ニプロパッチに転籍。研究開発部長、ビジネス開発部長、春日部工場長を歴任。ニプロファーマ株式会社品質保証部参与を経て、現在は公益社団法人日本薬剤学会事務局顧問。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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