経皮吸収製剤 ~基礎から応用まで~【第2回】

2023/09/29 製剤

経皮吸収製剤の製品企画を解説する。

3.経皮吸収製剤の製品企画
経皮吸収製剤(全身性)の製品企画をするにあたり、二つの側面がある。一つは製品コンセプト、もう一つはそのコンセプトにある薬物の存在である。今回は製品コンセプトについて考えてみたい。国内の6割近くの医薬品は、前回示した通り経口剤が占めており、投与の簡便性を考えると、在宅や入院時とも経口剤が使いやすいのは間違いない。そのような状況で経皮吸収製剤という剤形を開発するには、疾患や皮膚から投与する意義など、それなりの必然性が求められる。まず日本で上市されている主な経皮吸収製剤の剤形面から見た製品コンセプトを、各製品のインタビューフォームからピックアップした(本稿ではインタビューフォームの表現は一部改変した)。

●ニコチネルTTS(ニコチン、禁煙)
1日1枚貼付で長時間安定した血漿中ニコチン濃度を維持でき、アドヒアランスが良好。使用方法が簡便。

●ニトロダーム®TTS®(ニトログリセリン、狭心症)
1日1回の貼付で優れた効果が期待。皮膚刺激が少なく継続使用が可能。安定した血中濃度を24時間以上にわたって維持。

●フランドル®テープ(硝酸イソソルビド、虚血性心疾患)
肝臓での初回通過効果を受けず、安定した効果が持続。皮膚刺激の軽減を図り使用時の貼り直しが可能。

●エストラーナ®テープ(エストラジオール、更年期障害)
肝臓での初回通過効果を受けず、安定した血中濃度を維持。

●デュロテップ®MTパッチ(フェンタニル、癌性疼痛、慢性疼痛)
1回の貼付で72時間にわたり効果が持続。(筆者注:抗癌剤の副作用による嘔吐の症状があるときでも投与可能)

●ノルスパン®テープ(ブプレノルフィン、慢性疼痛)
週1回(7日間)貼付する持続型疼痛治療剤

●ホクナリン®テープ(ツロブテロール、気管支喘息)
1日1回の貼付で持続的な臨床効果を発揮。モーニングディップを抑制。経口・吸入投与が困難な患者にも投与可能。

●ビソノ®テープ(ビソプロロール、本態性高血圧、頻脈性心房細動)
1日1回24時間貼付により、安定した血漿中濃度を持続。

●リバスタッチパッチ(リバスチグミン、アルツハイマー型認知症)
経口剤に見られる高い血中濃度に起因する副作用(消化器症状)の軽減を目的とした薬物動態プロファイルの改善。(筆者注:患者の服薬状況が目視で可能)

●ニュープロ®パッチ(ロチゴチン、パーキンソン、レストレッグス症候群)
1日1回貼付で血中濃度を一定に維持。食事の有無や食事時間に影響を受けず、他の併用薬剤の服薬時間の制約を受けない。重大な副作用が認められた時は、製剤を除去することにより容易に投与を中断できる。経口投与が困難な患者に対しても投与可能。

●アレサガ®テープ(エメダスチンフマル酸塩、アレルギー性鼻炎)
1日1回貼付で服薬アドヒアランスが向上し、安定した血漿中濃度が期待。嚥下能力が低下した患者や誤嚥リスクのある患者へも投与可能。患者の服薬状況が目視で可能(貼付忘れや過剰投与の防止)。食事による投薬タイミングの制限がない。

●ロナセン®テープ(ブロナンセリン、統合失調症)
1日1回貼付で血漿中濃度の変動が小さい。肝臓での初回通過効果を回避でき、食事の影響を受けない。投薬状況(投薬の有無、貼付枚数等)が目視で確認可能。剤形の選択肢が増える。

●ハルロピ®テープ(ロピニロール塩酸塩、パーキンソン病)
1日1回の貼付による服薬アドヒアランスの向上。消化管障害の影響を受けない。患者の家族や介護者でも投与でき、使用状況を目視で観察できる。経口摂取が困難な場合でも継続使用が可能。副作用発現時には剥離することにより、それ以上の曝露を避ける事ができる。

●アリドネ®パッチ(ドネペジル、アルツハイマー型認知症)
1日1回の貼付投与で安定した血漿中濃度を維持。介護者等による患者への服薬管理(嚥下困難、寝たきり、多剤の経口服薬時の投与経路変更、投薬状況の確認等)が容易。

●ジクトル®テープ(ジクロフェナクナトリウム、癌性疼痛、腰痛症等)
1日1回の貼付で安定した血漿中濃度を維持。経口摂取が困難な患者にも投与可能。患者の服薬状況が目視で確認できる(貼付忘れや過剰投与の防止)。食事による投与タイミングの制限がなく、服薬アドヒアランスの向上が期待できる。

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執筆者について

山内 仁史

経歴

1981年第一製薬株式会社(現第一三共株式会社)に入社。研究所 製剤研究センター配属となる。株式会社ディ・ディ・エス研究所、埼玉第一製薬株式会社研究部に出向し、その後ニプロパッチに転籍。研究開発部長、ビジネス開発部長、春日部工場長を歴任。ニプロファーマ株式会社品質保証部参与を経て、現在は公益社団法人日本薬剤学会事務局顧問。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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