新・医薬品品質保証こぼれ話【第38話】

品質確保はやっぱり“人”。
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
品質確保はやっぱり“人”
医薬品の品質確保は医薬品安定供給の基礎であり、そのためには何よりGMP基準の的確な運用・実践が求められます。この“GMPの的確な実践”のためにGMP省令が制定され、これに関する様々な行政通知が発出されていることはご承知のとおりです。特に最近は、違法製造に係る不祥事の多発により、GMP査察の厳格化など監視指導に関する通知の発出が目立ち、直近の関連のものとしては「GMP監査マニュアル」(事務連絡:「GMP、QMS及びGCTPのガイドラインの国際整合化に関する研究成果の配布について」別添:令和5年9月1日 厚生労働省医薬局監視指導・麻薬対策課)があります。
“GMPの的確な実践”の基本は「医薬品品質システム(PQS)」の構築とその適正な運用にあることは、誰もが認識しているところです。しかし、どんな精緻なPQSを構築しても運用に問題があると、GMP省令が求める継続的改善や変更管理をはじめとする重要な要件を満たすことはできません。GMP省令が求める様々な要件を安定的に充足するためには、やはり、これを運用する“人の質”が鍵となります。このことから、“製薬工場が製造する医薬品の品質のレベルは、それに携わる職員の質に比例する”と言っても過言ではないでしょう。
例えば、ある製剤工程において何らかのトラブルが発生した場合、そのトラブルへの対処の巧拙により、重大な問題に発展し回収等に至るケースと、何ら問題なく処理され、そのロットが良品として出荷されるといった2つのケースに分かれます。この分岐点は何か?それは“人”、すなわち職員の質(レベル)の差によるところが大きいと考えられます。従って、いくら立派なSOP(標準作業手順書)や設備機器を整えても、職員の質が低いと問題が起きる可能性が高くなるということになります。
“人の質の向上”のためには教育訓練が求められますが、規定どおり、また、査察対応に支障がないように教育訓練を行っても、それだけでは、日々の製造や試験検査の現場でのトラブルやミスは防止できないでしょう。こういう状況に、教育訓練の限界を感じられている方も少なくないのではないでしょうか。このことは、“質の高い職員”の育成は、GMPの知識教育や技能訓練だけでは実現できないことを意味し、これ以外の要素が求められることを示唆しています。
“医薬品の品質は工程で造り込まれる”、というGMPの基本精神とも言える考え方になぞらえると、“質の高い人材”の資質や能力も、毎日の製造工程や試験検査の現場での業務経験により培われるところが大きいと考えられます。経験を通して様々な業務に少しずつ対応できるようになることは、誰もが経験し、実感しているところです。従って、その大切さは誰もが理解していますが、質の高い人材の育成には、特に、いつもと異なる事象(異常、逸脱など)が発生した際の対処法を学び身につけることが重要となります。換言すると、このような“異常時の対応に長けている”ことが質の高い“人”の重要な要件の一つと言えるでしょう。
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