新・医薬品品質保証こぼれ話【第30話】

不祥事と“組織の影響”。
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
不祥事と“組織の影響”
マイナンバーカードの“誤登録”の問題が拡大し、本制度のセキュリティー面に対する国民の不安がさらに高まっています。前回(第29話)はこの問題に関し、その原因と本制度の進め方やシステムの運用といったことに目を向け考察を行いましたが、今回はこういった不祥事(誤登録)の原因としての“組織の影響”について考えたいと思います。
先の“他人の公金受取口座の誤登録”や“マイナポイントの他人への付与”の問題に続いて、約13万件の“家族口座の誤登録”、および“マイナポータルから他人の登録情報の閲覧が可能”といった、セキュリティー上の新たな問題が確認され波紋を呼んでいます。この状況に対しデジタル庁(以下、「庁」)の河野大臣(以下、「大臣」)は、“今年(2023年)2月に国税庁から庁に2件の他人口座の誤登録事案の報告を受けていたが、5月19日まで庁内で共有できていなかった”などと陳謝しました(5月末)。
この2月の国税庁からの報告の後、最近になって、上記のようなセキュリティー上の問題が次々と明るみに出るという状況を受けて、6月5日、大臣は改めて次のような主旨のコメントを発表しました。①庁内で情報が迅速に共有できていなかったこと、②問題確認後に誤登録等に関する実態調査を指示したこと、③その指示に対する調査に漏れがあり、再度、調査を命じたこと。加えて、この翌日、岸田総理の指示を受け、改めて総点検の指示を行ったと述べました。
これらの発言内容から、大臣ご本人の本件に対する“問題意識”や“距離感”について少し疑問を抱きました。今回のような極めて重大な事案の発生に際し、庁内組織の上下の立場を意識した“上から目線”を感じさせる発言、民間企業では死語に近い“命令”という言葉の使用、また、ご自身としては“調査の指示をきちんと出していた”という、言い訳のようにもとれる発言、こういったことに違和感を覚えました。官ではこれがあたり前で、また、大臣ともなればこのような対応が一般的なのかも知れません。ただ、これら一連の発言から、自らの問題との認識、つまり、“当事者意識”という点で少し問題があるのではないかと思われました。
企業や公的機関などどんな組織においても、便宜上、最低限の上下関係は必要ですが、組織を構成する人の心うちは官も民も同じはずであり、明らかに上から目線で指示を行う上長の下で、熱意をもって積極的に業務に励む人が果たしてどれほどいるでしょうか。このことは、組織における上長の“求心力”にも関わる問題であり、この点において、庁の組織そのものが十分機能しているのかと疑問が湧きました。万一、組織内が危惧されるような状況にあるとすれば、“組織の問題”と、“情報共有の遅れや調査結果の漏れ”といった事態が無関係ではないように思われます。
誤登録事案や他者情報の閲覧性など、重大なセキュリティーの問題が五月雨式に露見する現状から、今の状況は、問題のある情報を含む重要情報が迅速に庁内に共有される風とおしのよい組織、とは言えないでしょう。また、今回のような重大な問題に対し、職員が力を合わせて主体的に原因究明や改善に取り組むといった、組織風土も醸成されていないのではないかと心配されます。本来であれば、国税庁から誤登録事案の報告を受けた2月の時点で、職員みずからが誤登録事案の実態やシステムセキュリティーの問題点などを総点検し、改善に向けた対応を自発的に行うものであり、大臣の指示を受けて行動を起こす性質のものではないはずです。
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