新・医薬品品質保証こぼれ話【第25話】

データ不正発生の原因と背景。
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
データ不正発生の原因と背景
記録やデータなどにおける改ざんやねつ造などデータ不正の問題は、製薬企業のみならず他の産業領域や学術論文においても見られるとはご承知のとおりです。先日(2023.3.27)、"がん治療論文データ捏造100カ所超 岡山大教授"という衝撃的な見出しで、データ不正に関する報道がありました。学術論文に関するデータ不正のニュースとしてマスコミに大きく取り上げられた事案としては、2014年1月に理化学研究所が発表した"STAP細胞"が思い出されますが、その後もこの種の事案が散見され、その都度、アカデミアや科学研究のあり方が問われています。
こういったアカデミアにおける学術論文に加え、近年、行政の調査報告や記録類などにもデータ不正が疑われる事案が相次いで露見し、しばしばその真偽が国会で議論される状況にあります。国が作成し保管する公文書の信頼性は、政治の安定を図る上において極めて重要であり、本来、国民の絶大な信頼・信用が寄せられるべきものです。しかし、昨今は上記のようにその信頼性に大きな翳りが見え大変残念です。また、最近ではフェイク情報に使用される写真データなどにも改ざんやねつ造が見られ、今の世の中は言わば、"データ不正横行の社会"と言っても過言ではない状況ではないでしょうか。
こういった状況を招く原因の一つとして、コンピュータ技術のめざましい進展が挙げられます。つまり、文字や数値情報の修正はもちろん、自然科学に関する研究の成果を客観的に示すための画像や図表データなどの改ざんやねつ造が簡単かつ高精度に行えることが、不正を誘発する要因の一つになっていると考えられます。しかし、問題はコンピュータ技術にあるのではなく、不正を行う人間の側にあることは言うまでもありません。本来、データ不正が“悪”であることは誰もがわかっており、また、露見すれば職位や信頼といった大切なものを失う可能性があることも理解しているはずです。にもかかわらず何故、データ不正は起きるのでしょうか?
大学などの研究者の場合、質の高い論文の数が名声や昇進など立身出世に直結することから、少しでも早くこういった成果を世に出したいという思いから、日々焦りを感じて研究を続けている研究者も少なくないのではないでしょうか。こういった“焦り”が事の善悪の判断を見誤らせる。つまり、事を急ぎ、焦りがあると、その不正が露見した際に、自身が被る“信頼の失墜や職位の喪失”など人生への重大な影響・損失に思いが至らない。特に研究が思うように進まない状況にあると、この傾向が増加し、もちろん人にも依りますが、データ不正に手を染める可能性も高まると推測されます。
では、行政官僚が財務データの改ざんを行うといった事案(森友学園問題など)の場合は、どういったことに着目する必要があるでしょうか。この場合は上記とは少し事情が異なります。人事権限を持つ上司の業務指示は絶対であり、指示内容がデータ不正を伴うことがわかっていても、指示に背くと今の立場や将来の出世の道を失うという人生の重大な危機に直面します。そのため、こういう状況下に、ほとんどの人はやむなく“悪”に手を染めることになるのでしょう。
この場合、冷静に状況を客観視し、不正が露見した場合の懲罰の重大性などに目を向けることができれば、内部告発制度なども利用して“不正”から逃れることも可能なのですが、勇気の要ることでもあり、罪悪感と躊躇いの中、多く人は上司の指示に従うことになるのでしょう。冒頭の理化学研究所の事案を含め、この種のデータ不正とそれに伴う悲惨な出来事は、改革が進む民間企業と異なり、官公庁という典型的な縦組織の中で起きる悲劇と言えるかも知れません。
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