【第6回】GCP-SOPライティング - GCPで必要なSOPと作成技法 -

2023/04/07 臨床(GCP)

今回は、医療機関に治験の依頼を行い治験の契約を行う手順、そしてCROの選定と委託管理を行う手順を紹介しよう。

 今回は、医療機関に治験の依頼を行い治験の契約を行う手順、そしてCROの選定と委託管理を行う手順を紹介しよう。


治験の依頼に係る手順
 実施医療機関に治験の実施を依頼する際の提出資料について、GCP省令第10条(実施医療機関の長への文書の事前提出)第1項に記載されている。第10条では、治験依頼者は「あらかじめ、次に掲げる文書を実施医療機関の長に提出しなければならない」と記載されているので、この条文に基づいてどの時期にどのような資料を提出するのかを、治験の依頼に関するSOPで定めておく必要がある。第10条で記載されているのは、治験実施計画書、治験薬概要書、説明文書、治験責任医師の履歴書と治験分担者リストなどである。
 被験者への支払に関する資料は、被験者への負担軽減費のほか、第1相試験でのボランティア(健康成人被験者)への謝礼のこともあるが、平成23年のGCP省令改正時のパブリックコメント(パブコメ)の回答では「支払いに関して明確に」との記載があり、具体的な金額を示すことを求めている。
 被験者の健康被害の補償に関する文書を提出することになっており、いわゆる保険契約(加入)の付保証明書がこれに該当するだろう。さらに補償に関する文書としては、被験者に生じた健康被害を補償するために会社が定めた補償規程と、これに基づいて被験者と実施医療機関へ説明するための文書(補償の概要)がある。この「補償規程」と「補償の概要」は、医法研(医薬品企業法務研究会)のWebサイトで公開されているひな形を参考にしてSOPで作成している治験依頼者が多い。
 

治験薬の事前交付の禁止に係る手順
 GCP省令第11条(治験薬の事前交付の禁止)では、実施医療機関との間で治験の契約が締結されるまでは、実施医療機関に治験薬を交付してはならないと定めている。このことはどのSOPに記載すべきかというと、治験の契約という文言が出てくるので実施医療機関との契約のSOPでも、治験薬の交付に関するSOPでも、あるいはモニタリングのSOPでも、いろいろなSOPに盛り込むことができる。もちろんこれら複数のSOPに盛り込んでも良いだろう。


治験の契約に関する手順
 治験依頼者と実施医療機関との治験の契約はGCP省令第13条(治験の契約)に基づいて締結されなければならない。契約者について旧GCPでは「治験依頼者の代表権を持つ者との間で行うが、実際には各治験依頼者ごとに契約担当者に権限を委任している場合もある」旨が記載されていた。現在のGCP省令ではこのような記載はないが、誰の名前(役職)で契約するのかを、GCPのSOPでなくても良いが何らかの文書で定めておく必要はあろう。治験の契約書に記載すべき事項がGCP省令第13条と同条ガイダンスで定められており、実施医療機関のSOPで規定された契約書を使用することもあるが、治験依頼者のSOPに契約書のひな型を定めておいたほうが良いだろう。
 治験の契約を締結するタイミングとしては、第32条(治験審査委員会の責務)で規定されているIRBの審査結果通知書と実施医療機関の長の指示決定通知書を入手した後であることをSOPで明記する必要がある。
 

業務の委託に関する手順
 治験依頼者は治験の依頼及び管理に係る業務の全部又は一部を委託することができるとGCP省令第12条(業務の委託)に書いてある。この「治験の依頼及び管理に係る業務」とは、すなわちGCP省令第二章と第三章の業務である。第四章の業務を委託するのであれば「治験の実施に係る業務」ということになるので、委託するのは治験依頼者ではなく実施医療機関ということであり、受託者はSMOということだ。実施医療機関がSMOに委託する場合は、治験の実施に係る業務の全部を委託することはできず一部の委託にとどまる。しかし治験依頼者は治験の依頼と管理に係る業務の全部をCRO(Contract Research Organization、開発業務受託機関)に委託することができる。例えば、自社で治験の依頼と管理の全てを行うほどの人員はもちろんのこと施設設備も限られるような小規模な製薬メーカーやバイオベンチャーでは、全部の業務を委託せざるを得ないこともあろう。
 第12条によれば、治験依頼者は業務の全部をCROに委託することができるが、治験計画の届出及び規制当局への副作用等の報告については当該業務を委託することはできないとされている。しかしこれは、当局への届出や報告をCROの名前で行わずに治験依頼者の名前で行うことを義務付けているということであって、治験計画の届出書の作成や副作用に関する報告書の作成、さらに当局へ提出(郵送、持参、オンライン等)することもCROに委託することは可能である。
 治験依頼者から業務の委託を受けた者(受託者)とは、一般的にはCROを指しているが、業務委託に係るSOPの適用範囲は必ずしもこれに限らない。治験薬に関連した医薬品製造受託機関(CMO, Contract Manufacturing Organization)の他に治験薬の保管(デポ)や運搬を行う業者、さらに治験薬の割付けを行う業者などがある。治験実施計画書等の治験関連文書の印刷や国際共同試験の際の翻訳などに活用する印刷業者や翻訳業者も該当するだろう。本項ではこれらの受託者をベンダーと呼ぶことにする。
 治験薬GMPはGMP省令に基づくものではなく、GCP省令第17条(治験薬の交付)に基づく通知である。したがってGCPのSOPに位置付けるべきであろうが、治験薬GMPに関してはGCP-SOPとは別のSOPとして作成する治験依頼者が多い。そのような場合は、CMOやデポなどの治験薬関連のベンダーに関する手順は治験薬GMPのSOPに記載することでもよいだろう。
 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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