新・医薬品品質保証こぼれ話【第21話】

「細部へのこだわり」と品質確保。
執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話」
「細部へのこだわり」と品質確保
「神は細部に宿る(God is in the details)」という言葉をご存じでしょうか?何事によらず細部が重要であることを諭した格言ですが、この言葉の由来については諸説あり明らかではないようです。この言葉、意味合いとしては、“物ごとを成功に導くには細部も手を抜かず、慎重に丁寧に対応することが大切であり、また、細部にこだわることで作品や製品の完成度が格段に上がる”、といった理解になるかと思われます。
細部まで精密に描かれている絵画や、表から見えない部分にまで細密な彫刻が施されている工芸品を見て、感動した経験をお持ちの方は少なくないのではないでしょうか。こういった作品は、作者の細部へのこだわりが作品の完成度を上げ、見る人の心を捉え、作品の命とも言える芸術性の高い評価につながっていると考えられます。
翻って、医薬品は芸術作品ではなく人の生命や健康と直結する、いわゆる“生命関連製品”であることから、“品質を確保することが命”であり、製品としての良否(成否)は品質の良し悪しにより評価されます。品質の確保は医薬品の製造過程において“工程を管理する”という考え方の基に進められますが、日々の生産活動においては様々なトラブル(工程トラブル、品質トラブル、ヒューマンエラー)に遭遇し、時に、その対応の誤りにより違法製造といった重大な問題に発展することは周知のとおりです。こういった品質上の重大な問題を未然に防止するために考案された基準が“GMP基準”であり、それを法制化されたものが“GMP省令”ということになります。
従って、医薬品の品質を確保するためには、製造や試験検査の業務をGMP基準に沿って進めることが基本となり、そのことが、すなわち“工程の管理”を周到に行うことと“GMP省令を遵守”することにつながるという考え方にもなります。日本にGMP基準が導入され要件化されたのは1980年ごろですから、それ以降の長きにわたり製薬企業においてGMPが実践され、数多の経験が積み重ねられてきているはずです。しかし、残念ながら、未だ違法製造など重大な品質事案があとを絶たない状況にあるのが現状と言えるのではないでしょうか。
その原因の多くは、製剤設計、工程設計、技術移転、製造管理、試験検査、記録管理、教育訓練、変更管理、逸脱対応、バリデーション、設備維持管理、などなど、GMP要件に関わる様々な事項への対応の不備と考えられますが、こういったことの根底にある共通する課題の一つとして、神が宿るとされる“細部へのこだわり”の欠如があげられます。
“細部へのこだわりの欠如”が医薬品品質に影響を及ぼす事例として、“設計段階”の検討について考えてみたいと思います。“設計段階の検討不足”が商用生産における様々な品質トラブルの発生につながることは周知ですが、時間的余裕のなさや検討プロトコルの内容の不備などにより、製剤設計や工程設計の検証が十分行われない状況下に技術移転に進められたというケースも散見されるようです。
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