医薬品委受託製造に関する四方山話【第3回】

4.製薬メーカーの製造戦略
 まず、はっきりしているのは、自社工場を持たない会社の場合です。この場合は明らかに内製という選択肢がとれないので、必然的に外製を選択するしか方法はありません。意外にこのような製造販売業者が多いのは、受託業としてよく感じるところです。2005年の薬事法改正が契機となっていることもありますが、自社工場を持たなくとも原薬製造、製剤・包装まですべて外製している製薬会社が結構な数存在しています。製造はスペシャリストに任せ、研究・開発・販売に特化していくスタイルです。このような製薬会社の多くは、ある疾患領域の研究・開発・販売に特化した日本の会社であったり、最近日本市場に進出してきている海外企業であったりします。
 
 一方で、多くの製薬会社は自社工場を持っており、内製・外製の選択を常に考えながら製造戦略を構築しているとおもいます。私は前職時代に、医薬品メーカーとして自社製造をするのが当然基本であると考えておりましたが、皆さんの会社ではいかがでしょうか? 20年以上製薬会社での勤務を経験されている方々にとっては、入社当時と現在では大きな変化があったと言われる方が多いのではないかと推測いたします。一般的には、会社としての上位の基本戦略があり、個々の製品や製品グループ、工程等で内製するのか外製するのか、内製ならどの工場でするのか、外製の場合はどの会社に任せるのか具体的にブレークダウンされていくのが通常パターンで、この戦略は、社内外の環境変化に合わせ、時代とともに変化していくものだとおもいます。私の経験では、「御社の内製・外製に関する製造戦略は如何に?」という質問に対しよく聞く回答は、「重要な製品の重要な工程は自社製造を基本とします。」です。この場合の重要な製品、重要な工程の定義とは何でしょうか? 会社経営に対して重要ということであれば、当該会社の収益に占める割合の大きな主要製品や製造技術伝承がポイントになる工程・製品かもしれません。また、社会にとって重要な製品ということであれば、代替え品のないワクチン、抗がん剤や希少疾病医薬品かもしれません。会社ごとにそういった独自の判断基準を定め、開発から上市、販売終息に至るすべてのライフサイクルの中で、内製・外製の意思決定を適切に行い「品質を守り、リーズナブルなコストで安定供給」を行っているのです。ここで、一言強調しておきたいのは、医薬品の製造をどこで実施するかについては、他産業と最も違う重要なポイントがあります。すなわち、規制当局への変更申請、許可取得等、レギュレーションという大きな壁が立ちはだかっていることです。そのため、仮にこれまで内製で製造していたものを外製にしようと決めたとしても、その変更には膨大な時間とタスク、コストがかかってきます。製造サイト変更に伴い、技術移転、オペレーション教育、設備変更、バリデーションによる検証、安定性を含めた品質の恒常性確保等に多くの時間が費やされるのはご承知のとおりです。多くの製薬会社は当然そのことをよく理解し、どの製品のどの工程は、市場でどういう状況になった場合に内製から外製に切り替えるといった判断基準を作成しています。それは、その製品の市場での位置付け(たとえば特許切れや一定の数量以下になった場合)やその工場内での製品構成変化かもしれません。キャパシティー、コストなどがトリガーになる場合もありますし、出荷市場のGMP要求レベル等がトリガーになる場合もあります。また、原薬⇒製剤⇒包装の一連プロセス工程のどこを外製し、外製によってどの程度プロセス変更が発生するかで、一変承認を得るために必要なデータの量が変わってきます。最終製品の品質への影響度が大きな場合には、Validationや安定性データの取得が要求されるのは言うまでもありません。トータルコスト比較で外製を断念するケースもあり得ます。
 
 また、剤形、包装形態、原薬工程の前工程か後工程かで、製造戦略を決めている会社もあるようです。内製するのは固形製剤のみで、液剤、注射剤はすべて外製、原薬もすべて外製と割り切っている会社もあります。その場合には、自社として持つべき製造施設は固形製剤のみとなり、必要な固定費は圧縮されますが、固形製剤の技術のみしか伝承できないということになります。また、最近多いのは、原薬工程内の内製・外製の切り分けです。原薬工程は、各単離中間体が安定であれば、途中で内製・外製を自由自在に切り替えられます。よく実施されているパターンは、品質への影響度の大きい重要工程は自社で実施、その前は外製というパターンです。その極限的な例が、精製工程を含む最後の1,2工程のみ自社で実施し、それまでの大部分の工程は外製とするパターンです。一般に、製品のCOGS(Cost of Goods)に占める割合として、原薬・製剤・包装を比較すると、原薬工程が最も大きな割合を占めるケースが多く、次に製剤、包装という順になります。言い換えると原薬をいかに安く製造できるかで、製造コストの大半が決まることになります。したがって、原薬工程の中で最終品質に対する影響度が低い前半工程を安い労賃で製造できる他所(最近ではインド、中国、東ヨーロッパ等)で製造し、最後の品質は自社で保証するために内製するといったアイデアが出てきます。他方、原薬前半工程に重要な工程があった場合には、基本戦略に合わないということで外製できないといったことが生じるかもしれません。そのようなことも踏まえて開発時から適切な出発物質を選定し、製造ルート、プロセスを検討・構築することが、プロセスケミストリーの醍醐味の1つかもしれません。
 

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