新・医薬品品質保証こぼれ話【第14話】

2022/10/28 品質システム

大局観とスピード感。

執筆者の連載をまとめた書籍を発刊「医薬品品質保証のこぼれ話

大局観とスピード感

現在の“医薬品回収の考え方”を見直す具体的な動きが、ここにきてやっと出てきました。情報(2022年10月中旬)によれば “医薬品・医療機器等レギュラトリーサイエンス政策研究事業”の研究テーマとしてこれに関する課題が採択され、「医薬品、医療機器等の回収に関する研究」をテーマに研究が進められることになった模様です。現在の医薬品の供給不足を鑑み、“医薬品の製造に違法性が認められても、品質・有効性・安全性に問題がなければ医薬品の回収は不要とする”という考え方については、これまで繰り返し述べてきました。しかし、現在の回収基準に照らすと“違法製造は即ち回収”と解されることから、この対応を合法に可能とするためには現在の回収基準を改定する必要があります。今回はこういった考え方を基本に据え、上記の回収基準改定の動きを機に、改めて、本基準改定に関して様々な観点から考察を行いたいと思います。

これまで繰り返し述べてきているように、現在の医薬品不足は長い年月の間に様々な要因が絡みあった構造的な原因により発生したものであり、自主回収のあり方の問題もその構造的な原因の一つと考えられます。従って、供給不安を根本的に解消するにはこの構造的原因を包括的に捉え、各要因の相互関係などを評価・解析し、根幹をなす“重要な要因”を見極め、それに対し優先的に対策を打つ必要があります。つまり、大局的な視点から、改善に取り組む事項の優先順位を設定し、それに沿って、順次、解決に向けた対策を講じるという進め方が求められます。ただ、その一方で、今の深刻な供給不安を少しでも緩和するための措置も重要であることから、解決に時間を要する課題と同時に比較的短期間で結論が出せる事項に分けて、この両者を並行して進めるのが効果的と考えられます。

いずれにしても、大切なことは検討の場の一元化あるいは検討状況の把握を一元管理し、問題点を俯瞰し、課題を網羅的に整理分類し、課題ごとに担当と期限を決めて、少しでも早く具体的な対策案をとりまとめ、一刻も早く実行に移すことではないでしょうか。特に、期限を決めて進めることと、早期に実行に移すことが重要と思われます。そのためには、“医薬品不足の解消”という、目指すゴールを一にする関連の有識者会議や研究会の進捗や成果の動向を、求心力のあるリーダーの下に一元的に把握し進めることが大切となります。

随分前のことになりますが、ある業界(同じ薬事関連業界)の活性化・発展に向けて課題を整理し、改善に向けて提言を作成するというプロジェクトに参加したことがあります。7名ほどのメンバーが一人のリーダーの下に集まり、半年あまりの期限付きで検討を進めました。業界活性化のための要件として、国際化、技術面、規制面など検討を要する領域を定め、全員で議論し、取りまとめは領域ごとに担当を決めて進めた記憶があります。問題点の洗い出し、活性化実現の要件整理、それを受けての行動計画の策定という流れで整理を進めました。夕方から始まる3時間ほどの会議を7~8回重ねた末に、最終的に一枚のチャートに改善の要件、ゴールに向けての進め方のフローなどを整理し、提言の形でとりまとめました。後日、この提言を基に業界全体として正式にプロジェクトが発足し、各課題の改善に向けて対策が講じられていることを聞き安心したものです。
 

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執筆者について

浅井 俊一

経歴 1974年ロート製薬入社。品質管理・薬事・品質保証の各業務にそれぞれ7年・15年・16年間従事。退職後、2018年まで中国の原薬工場および国内受託企業において、改善・人材育成を含む品質保証全般に携わる。
中国での活動に、「新薬事法下の日本の医薬品品質保証体制」(2009/上海),「日本に輸出するための原薬品質の要件」(2017年/杭州)などの講演や、北京CFDA(現, NMPA)主管「医薬経済報」への「中国原薬の品質確保の視点」の連載(2012年)などがある。
取り組みテーマは「製薬工場のヒューマンエラー対策」,「中国等の海外原薬の品質と安定供給の確保」,「GMP記録の信頼性確保」,「組織コミュニケーションの活性化」,「作業者のモチベーションの確保」など。
著書に「改訂版GMP教育訓練マニュアル」(㈱じほう、共著),「3極対応/試験検査室管理実践資料集」(㈱情報機構、共著)などがある。
元,日薬連品質委員会常任委員。元,日本OTC医薬品協会品質委員会委員長。元日薬連CSV検討会メンバー。 薬剤師。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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