ゼロベースからの化粧品の品質管理【第22回】

2022/06/24 化粧品

今回は、お客さまに届ける製品の品質に直結する作業プロセスである充填、包装・仕上げ作業について解説する。

化粧品GMP手順書の作り方 ⑤生産 2)包装作業


 毎月この場を借りて、化粧品の品質保証体制に関して、GMP手順書を作る際の留意事項を中心にお話させて頂いています。今回は、お客さまに届ける製品の品質に直結する作業プロセスである充填、包装・仕上げ作業についてお話します。GMPの要求事項の中では軽い表現で記載されていますが、その意味するところは深いものがあります。例えば、“7.3.1.2a)適切な機器”とは、どんな意味でしょうか? 本来求められる仕様、錆がない、汚れがない、衛生的である、求める条件で適切な状態で稼働する、作業が間違いなく確実に行える、状態の確認等が適切に行える等、その求める事項はGMPの3原則の要求に応えられるものでなくてはいけません。今回は色々お話したい事項がある中から、品質保証の肝の部分についてお話します。

1.GMPの要求事項(概要)
1)必要な文書類の準備;機器の適格性の確認の手順、構成材料一覧、詳細な作業手順の指示
  (使用機器、充填、閉塞、表示、バッチ番号)が整い、活用されていること。
2)開始前点検:合格材料が使用されること。異種材料が使用されないようラインクリアランスが
  確保されていること。洗浄/消毒等が行われ衛生的な機器であること。
  また、その状態が容易に確認できること。適切に稼働する状態に機器が調整、準備されていること。
  製品の識別コードが指定され、生産ラインの識別表示がされていること。
3)最終製品のバッチ番号の指定:バルク番号とのトレーサビリティーが取れる番号で指示されていること。
  例えば、バルク番号と必ずしも一対一の対応は求められていないものの、基本は品質の均質性の面から
  バルクのバッチ番号に対応して製造記号が指定されるべきと考えます。
  但し、細かくし過ぎると検査や保管サンプル数が増えることから、ある程度の割り切りも必要です。
4)オンライン制御装置の定期的な点検の実施:本来ならば生産開始時、休憩後の生産開始時、
  バルクのタンクや材料のロットが変わった時は重点的に確認を行うべきであると考えます。
  一元的に一定時間の間隔で行われているケースがほとんどですが、好ましくはリスクに応じて点検の実施を
  行うべきです。
5)工程管理、逸脱管理、規格外品の処理が適切に遂行されていること:いつもと違う条件や状態で生産が
  行われた時には、逸脱管理が確実に実行されるべきですが、逸脱の認識と品質への影響の検証がなかなか
  定着していないように感じます。
6)包装材料の再保管方法: 混同防止と使用される前と同じ識別表示がされていること。

 当然のことながら、作業は指図書により指示され、①製造する製品 ②使用するバルクロットおよび出庫された重量 ③材料ロットおよび出庫された個数 ④生産数量 ⑤製造記号 について、品質部門が確認を行い、製造部門の責任者により発行されます。最近では、タブレット端末を中心に指示される仕組みで運用している製造所もあります。
  GMPの要求事項としては、次の事項が求められています。
  a) 作業業標準書や単位操作手順書で作業の詳細が定められていること
  b) それらの文書を確認して作業をすること。(利用できる状態であること)
  c) ルールに従って作業が行われた証拠として記録書が作成されること
 現実問題としては、製品が違っても同じ美類の化粧品ならばどの製品も構成材料は同じですので、文章類を見なくても作業が出来てしまうことに十分注意が必要です。 “勘違いしてしまいました”と、トラブル時の発生原因としてコメントが出されるケースを目にします。しかし、勘違いではなく、文章類に基づく作業が行われずに経験で作業をしているのではないかと考えます。文書に基づく作業を各ステップで確実に行うことが必要であると考えます。
 更に、製品の標準品、各構成材料の標準品等、標準品類を事前に現物で確認することも重要です。運用方法としては、その日に使う材料の中から二次標準品を設定して使用する方法を推奨します。その理由は、標準品が市場にでてしまったことを複数回経験していることと、品質保証の面からは、標準品とその日に使用する材料で色調等の多少の品質のズレがあることから、頭で標準品とのズレを考慮して生産することは現場の判断が甘くなりがちであると考えるからです。勿論、標準品に対して絶対値としてのズレを管理することが原則であることは事実です。しかし、同じロット内でのバラツキを把握することを優先すべきであることと、作業者の方の立場としては分かりやすいことを優先すべきであると考えます。そのことよりも、現実問題としては現物を使用しないで印刷物だけで作業されている工場も多く、写真等の印刷物と現物とのリアリティーの差の認識が持たれないことに対して疑問を感じます。
 

 

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執筆者について

鈴木 欽也

経歴

1980年に㈱資生堂に入社。掛川工場で処方開発・生産技術開発を担当。ネイルエナメルのゲル化剤、色材の開発や調色に関するコンピューターカラーマッチングシステムを開発。他に高圧乳化、凍結乾燥、パーマ剤、ヘアカラー等の特殊技術開発にも従事。
その後、本社生産技術部で海外事業戦略、海外工場建設、生産技術移転、海外薬事対応の業務を担当した後、再び掛川工場でファンデーションやマスカラ生産の移管業務を担当、本社で海外原料・資材・製品調達の業務を担当した後、中国北京工場の取締役工場長として、工場建設とシャンプー、リンスの現地生産化や化粧品の工業会の業務に尽力。
帰国後、掛川工場技術部長、大阪工場技術部長を歴任、FDAの査察受け入れやEU原薬登録を実施。
また、㈱コスモビュティー執行役員 品質管理部長としてベトナム工場、中国工場を建設。現在、㈱ディー・エイチ・シーさいたま岩槻工場の工場長でメーキャップ製品の工場改修・立上げを実施した。2017年から中小企業診断士として、鋳造業、サービス業、建築業等の事業計画作成支援や企業の5S活動支援を実施している。
品質管理に関しては、米国OTC製品の化粧品業界で日本国内初のFDA査察を受け入れ、指摘事項ゼロ件での対応、ヒアルロン酸のヨーロッパ原薬登録・米国FDA登録、ヒアルロン酸の原薬工場棟の増設を責任者として推進した経験を持つ。
公害防止管理者(水質1種、大気1種)、中小企業診断士(埼玉県正会員)、FR技能士、ターンアラウンドマネージャー(事業再生、(一社)金融検定協会認定)、健康経営EXアドバイザー、ISO9001審査員補、2022年5月から(株)エコノス・ジャパン代表取締役

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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