医薬品の外観目視検査における要求品質の明確化のために【第11回】

2021/11/12 品質システム

注射剤の外観検査について解説する前に、注射剤の特殊性や多様性について解説する。

注射剤の外観検査

1.注射剤の外観検査
1.1 注射剤の特殊性
 注射剤の外観検査について解説する前に、注射剤の特殊性や多様性について理解しておきたい。
 多くの場合、注射薬は内服薬や外用薬と比べて薬の効果がもっとも早いのが特徴である(即効性)。特に、静脈注射や点滴静注は直接、血管に注射液を投与するため、効果が迅速に現れる。例えば、食後に血糖値が急速に上昇する糖尿病などで速効型インスリン注射が使われるのも、迅速な効果を期待してのことである。特に、蜂に刺されたり、薬剤の副作用でおこすショック状態の場合は、急を要すため、内服薬や外用薬では間に合わないため、エピペンやボスミンなどのアドレナリン注射での治療が必要である。
また、注射薬には、内服できない患者(事故などで意識不明になっている人等)にも投与できるメリットがある。
さらに、注射薬の場合は、薬の投与量が少なくて済む。内服薬は服用した薬の成分の一部が胃や腸で分解され、肝臓でも代謝されるため、血中濃度は低くなっている。

1.2 注射剤の種類
 注射剤と一言で言っても、用途、性状、容器の違いによって、検査方法、手順、基準が異なる。そのため、注射剤にはどのような種類があるかを知っておく必要がある。

1.2.1 注射する場所と種類による分類
 注射薬は、皮膚や筋肉、血管などへ注射で送り込まれる。治療薬のほか、栄養成分を送り込む点滴も注射薬に含まれる。特別なものを除き、注射薬はすべて全身に作用する。
皮膚表面は「表皮」と呼ばれ、その下に「真皮」、脂肪などの「皮下組織」があり、さらにその下に筋肉の層がある。治療目的によって注射する部位が異なる。

  1. 皮内注射
    皮膚の表皮と真皮の間に注射する。ツベルクリン反応やアレルギー反応など、主に治療ではなく検査で行われる
  2. 皮下注射
    皮下組織への注射である。ワクチンなどで多く用いられている。多くの場合、比較的ゆっくり吸収されて効果が長く持続する。
  3. 筋肉内注射
    筋肉内に注射する。静脈注射に次いで吸収が速いのが特徴である。
  4. 静脈注射
    静脈に直接注射する。最も効き目が速く、救急時の緊急処置などにも使われる場合がある。
  5. その他
    静脈への点滴(点滴静注)の中で、さらに深い部分にある中心静脈に栄養成分を送り込む中心静脈栄養(IVH)や抗がん剤などのための動脈内注射などもある。

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執筆者について

新井 一彦

経歴 C&J 代表
化学系企業にてバイオテクノロジーを利用した医薬品の探索、開発研究に従事。その後、開発医薬品(無菌製剤)の製造工場立上げに製造管理者として関わりGMP組織体制、基本構想を構築した。
平成17年の改正薬事法完全施行に合わせ、新たに製造販売業を取得するため某ジェネリックメーカーの設立に関与。取締役信頼性保証本部長として総括製造販売責任者の責務を担った。
現在、C&J 代表として、講演、執筆、国内外のGMPコンサル業務活動を推進。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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