医薬原薬の製造【第16回】

2015/12/16 原薬

前回、反応槽の素材と反応の際の熱収支を計算する総括伝熱係数について説明しました。反応を実施するときの熱収支を計算するためには、総括伝熱係数と、溶液の比熱、反応熱のデータが必要です。今回は総括伝熱係数を使った熱収支の簡単な計算例、比熱計算、反応熱の測定および計算、反応の安全対策について述べます。

 総括伝熱係数を使った熱計算の例
総括伝熱係数を使った簡単な熱伝導の計算例を紹介します。課題は以下とします。
課題
・総括伝熱係数500(Kcal/m2.・hr・deg)の反応槽に、2400Lの水を入れ、
 140℃の蒸気で加熱した場合、沸騰までにどの位の時間を要するか?
・100℃に到達した段階で、そのまま加熱した場合、還流量はいかほどか?
 
反応槽のサイズと計算結果は後述します。まず、温度差ΔTの時間経過を示す微分方程式を解いてみます。伝熱量はU・S・ΔTとなります。
次にΔTが時間とともにどう変わるのかについて議論します。
U:総括伝熱係数   S:伝熱面積   C:内液の比熱      M:内液の重量   t:時間
ΔT:加熱媒体と内液の温度差
としますと、微小時間dtの間の伝熱には以下の関係式が成立します。
 

これを変形すると以下の変数分離微分方程式になります。
 
 これを解くと



さらにこの式を積分すると  


この積分の式は、当たり前の結果です。加熱される液体が受け取る熱量です。
 
上記の考察から、加熱される槽内の液体温度は、下図の赤線のように、直線にはならないことが理解できると思います。そもそも伝熱量は内温が上がるとともに、ΔTが下がりますので、伝熱量も下がるわけです。従って直線では動きません。また、内温は、加熱媒体の温度にはなりません。どこまでいっても、漸近するだけです。また、青の曲線とベースの黒線との間はであり、この数値は、総伝熱量に比例します。即ち、反応槽内の液体の温度差になります。これがわかると、下記の系における平均ΔTは、下記に示すように、 となります。単なる平均というわけです。総括伝熱係数の計算で、場所によって、伝熱量が変化する場合は、単純平均ではなく対数平均温度差を用いることがありますが、この場合は、単純で良いことになります。これは気を付けておかなければいけません。

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執筆者について

森川 安理

経歴 アンリ・コンサルティング 代表。
大学修士課程で有機化学を専攻後、1977年旭化成工業(株)入社。スクリーニング化合物の合成、プロセス化学研究に一貫して従事。この間薬学博士号取得。その後、医薬原薬の工場長を10年経験。工場長として、米国、イタリア、豪州、韓国の当局の査察および、制癌剤を中心にする治験薬の受託生産を経験。旭化成ファインケム(株)を2013年2月末退職。2013年3月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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