【医薬品工場建設のノウハウ 番外編】原薬製造設備の基本計画(概念設計)のポイント その2

2020/05/22 施設・設備・エンジニアリング

プロジェクトを成功に導くための手順について、ユーザー(製薬会社)の視点で紹介する。

前回の投稿で原薬製造設備の計画において、時間の考慮が重要であることを述べた。
本稿では、その時間の検討の仕方の一つとして、バッチ生産における非定常状態での工程の所要時間の算出方法を紹介する。

合成原薬、バイオ原薬製造における非定常状態として挙げられるのは、加熱、冷却、加圧、減圧、仕込み、払出し、混合等の工程である。
この内、加熱、冷却工程は所定の温度に至るまでの時間が、加圧、減圧工程では所定の圧力に至るまでの時間が、仕込み、払出し工程では積算流量や液位が所定の値に至るまでの時間が、そして混合工程では不均一状態から均一状態に至るまでの時間がポイントとなる。
本稿では、これらの内、基本計画段階では想定することが難しい加熱、冷却、減圧の各工程にフォーカスしてその検討方法を紹介する。

先ずは加熱工程について紹介する。
合成原薬、バイオ原薬製造における加熱は以下の図のようなジャケット付きの撹拌槽で行うことが多い。
 

このジャケットに供給する熱媒がスチームのように潜熱流体(気相から液相に相変化を伴う)で槽のヒートロスが無視できる場合は以下の微分方程式が成立する。
この式はある時間に槽内流体が得た熱量(左辺)と槽ジャケットから伝熱した熱量(右辺)は等しいことを示している。

この式を積分して解くと以下となる。

A:槽ジャケットの有効伝熱面積
  内流体が接している槽内面の外側にジャケットがある部位の面積であり、槽形状
 とプロセス流体量から算出する。
Cp:槽内流体の比熱
 プロセス流体の比熱であり、バイオ原薬の場合は水相当として問題ないが、合成原
 薬の場合は使用する溶媒によって大きく異なるので注意が必要である。尚、比熱は
 温度に依って変化するが基本計画段階では無視できるとして問題ない。
M:槽内流体の質量
 槽内にホールドされたプロセス流体の質量であり、バイオ原薬の場合は
 密度1,000kg/m^3(水)として体積から算出して問題ないが、合成原薬の場合使
 用する溶媒によって密度が大きく異なるので必ず確認すべきである。
T:ジャケット内スチーム温度(一定)
 ジャケット内に供給されているスチームの温度であり、供給流量調節弁(槽内流体
 温度計によりループ制御される調節弁)の上流のスチーム供給ヘッダーでの温度と
 異なることが多いので注意が必要である。これは調節弁にて絞り込まれたスチーム
 は圧力降下し一時的にスーパーヒート状態となるが、蒸気の顕熱は小さいので速や
 かに飽和状態となり温度が下がるためである。尚、ある圧力における飽和蒸気温度
 は以下の式で算出した数値とよく整合することが知られている(科学的な根拠は不
 明らしい)。情報ユビキタスの現在では携帯で容易に調べることができるが、電卓
 で算出できることより、以前は重宝されていたものである。  
t:槽内流体の温度
 プロセス流体の温度であり、槽内の撹拌が十分に機能していないと温度分布にムラ
 が出ることがあるので注意すべきである。
t0:槽内流体の初期温度
 加熱開始前のプロセス流体の温度である。
U:総括伝熱係数
 総合的な熱伝達効率を示すもので、ジャケット側、槽内の構造因子、流体特性等が
 パラメータとなり算出されるが非常に複雑なので、基本計画段階では経験的に設定
 するのが一般的である。化学工学便覧、熱交設計ハンドブック、グラスライニング
 メーカーカタログ等を参照するとよい。尚、実機据付け後に温度、流量測定値等か
 ら逆算して確認することを推奨する。
θ:加熱時間
 所定温度まで昇温するために費やした時間である。実運転において、ジャケット内
 の汚れや運転異常によりこの時間が変化することが予想されるので製造記録の一つ
 にしておくことを推奨する。

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執筆者について

河合 正雄

経歴 株式会社シーエムプラス 常務執行役員 技術・設計統括部長
1981年、大手エンジニアリング会社入社。原子力の機械設計、化学のプロセス設計を経験後、1993年からライフサイエンス部門に移動し、数多くのバイオ原薬、合成原薬、無菌製剤のプロセス設計を担当。2014年からは部門マネージメントを歴任。社外では日本PDA、ISPE、HS振興財団、製剤機械技術学会にてWS、開発、委員等を歴任。2017年株式会社シーエムプラスに入社後、無菌製剤、経口剤、外用剤、中分子原薬のエンジニアリングマネージャーを担当。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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