ソー責のソー肩にはソー当重い責任がのっている!【第7回】

2014/04/07 製剤


1.本社から研究所に異動、そして生産現場の経験
 本社薬品生産部の技術G(グループ)課長の後、研究所で企画管理室長を経験することになった。入社して8年間を研究所で発酵を行ったことは第2回に書いたが、その研究所に戻ることになった。18年ぶりの研究所であった。企画管理には、これまでの技術に加え、事務関係という初めての仕事も含まれていた。研究所の人事から経理、そして研究計画にまで幅広い、定年まで数年というベテラン技術者二名、経理のベテラン男性社員、コンピュータに強い女性、庶務を担当する女性社員、図書館の管理と事務の補助のパート社員のみなさんからなる構成で、自分が室長として取り組んだ。少人数でいかに円滑に研究所運営を下支えし、研究者がいかに良い研究をしてもらうか、研究に専念してもらうかをこの組織の課題とした。この研究所は、薬品生産技術研究所として微生物、合成、分析、製剤の開発から生産技術を担当し大きな組織である。自分のキャリアも事務的な人事や経理の仕事まで広がった。新しい生産原資を探索するために、本社の海外部門、生産部門、開発部門、薬品以外の新素材まで含めた原資の新しい用途の開発などを進めていった。営業活動も含めた他社を訪問、他社との共同開発を進めるというような活動も進めた。
その中から、ビタミンB12、アスタキサンチン、ガンマーポリグルタミン酸、新酵素などの多くの原資が見出され、工業化に成功した。この研究所での企画管理室長を2年間経験した後、いよいよ現場の室長を経験することになる。なお、この研究所は、人材を育てる研究所となり、一緒に仕事した副所長、室長から役員が6名輩出した。
 
待望の製造現場であった。300KL槽、2基を始めとして125KL槽、100KL槽などからなる総容量2500KLの規模の足柄工場培養室である。発酵槽は、何れも巨大で、高さが20数メートル、タンクの中は驚くほどピカピカで鏡のように洗浄されている。大量生産をしていたストレプトマイシンに使用していた。メンテナンスも、安全管理もシステムとして非常に優秀であった。
 しかし、安い人件費の中国などの攻勢から、この工場も閉場することになった。その当時の一人あたりの人件費を比較すると、中国が年収5万円、足柄工場の人件費が500万円と一人の人件費で100倍の差があった。高付加価値の製品、他では作れない製品を作らねばならない状況になっていた。
 生産技術というのは、長年の積み重ねてつくりあげたもので、汚染をさせない技術、高品質の製品を安定して、安全に生産する技術は一朝一夕でできたものではない。生産技術に携わってきた者にとっては、原価無視ともいえる中国、それを取り扱う商社、その経済原理は、技術者として忸怩たるものがあった。
 しかし、決まった以上は、完璧に閉場を進めるのが我々の責任である。現場のみなさんに他工場への異動をお願いしたが、どうしても異動できない方は退職されていった。培養室でも32名いたメンバーの内、若い人から順に11名が退職された。しかし、残ったメンバーの仕事は立派であった。一年間の大量の積上げ生産、岐阜工場への技術移転、新しく岐阜へ導入する品目の新しい生産技術のスケールアップ、少なくなった要員で多くの仕事をこなすためのモチベーションの確保など多岐にわたる仕事を、力を合わせ乗り切っていった。この、2年半は、汚染ゼロ、トラブルゼロ、そして、これまでなかった新しい製造法を作り上げスケールアップも成功した。
 一緒に仕事をしてくれた二人の中、現場を担当するG(グループ)長は、自ら率先して巨大タンクに入り、ジェットクリーナーで槽内洗浄に取り組み、安全点検も細部に亘るまで実施し、生産におけるリスクを潰してくれた。微生物汚染を防ぐためのメンテナンスや施策も完璧なものであった。もう一人の技術担当のG長は、新製品のスケールアップ技術を大胆に構築していった。微生物の特徴を生かし、従来の製造法とは全く異なる生産方式であった。菌体の遠心分離機には、アルファラバルを活用したが、徹夜でG長が使用条件を検討し、その努力で工業化が成功した。その後、その活用を聞いたアルファラバルの副社長が来場され、活用の巧みさを絶賛された。忙しい中で構築した生産法をプロから高く評価されたのは、とても嬉しいことであった。
 次にその菌体の処理についても取り組んだ。飼料にすれば、産業廃棄物はなく、産業廃棄物の設備は不要となり、有価物としても販売できる。そのコンセプトで菌体乾燥のパイロット実験を進めた。経験はしていなかったが、乾燥させれば良いだろうと研究所のスプレードライヤーを借りて試作した。問題もなくスムースに出来上がり、分析、家畜での試験も生物産業部に依頼し、飼料として使えることを確認した。そして許可を取った。販売先についても、酵素事業で知り合った大阪の会社に相談、販売ルートをつくるために福岡や宮崎の養鶏場にも出かけて行った。移管先の岐阜工場に、そのための乾燥機を導入し、乾燥菌体を飼料として実売につなげた。

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執筆者について

木下 統晴

経歴 1975年明治製菓(現 Meiji Seikaファルマ)に入社。発酵技術研究、本社薬品生産部生産技術Gで各種プロジェクトを推進後、研究企画管理室長、足柄工場培養室長、岐阜工場品質管理部長、小田原工場長(製剤)、薬事・監査部長等を歴任、2007年執行役員 信頼性保証センター長(総括製造販売責任者)。2012年に役員を退任。この間、神奈川県製薬協会長、日薬連品質委員会常任委員、東薬工品質委員会副委員長等も務める。
※2017年5月現在、一般財団法人化学及血清療法研究所 理事長(代表理事)
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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