ラボにおけるERESとCSV【第121回】

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(91)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ WWWW社 2023/9/1
施設:製剤工場(受託)

■ Observation 2
コンピュータの入出力、記録やデータの正確性を確認していない。特に:
A) 機器のOQにおいて校正曲線を生成すべくいくつかのサンプルを使用した。しかし、それらサンプルの実重量生データが記録されていない。
B) 2023/8/30にQCラボの管理を査察したとき、電子天秤の日時を分析者が変更できてしまうのを確認した。
C) 2023/8/23にQCラボの管理を査察したとき、機器が生成した生データファイルを分析者が削除し名称を変更できるのを確認した。これに対し、イベントログと監査証跡によりこれらを把握できるとQCのマネージャーは説明した。しかし、ソフトウェアのイベントログと監査証跡により削除と変更を検出できることをQCマネージャーとIT職員は実証できなかった。当日、コンピューターのゴミ箱にいくつかのファイルが入っているのを確認したが、それらのファイルがなぜゴミ箱にいれられているのか説明できなかった。
D) 2023/9/1に実施したQCマネージャーによる監査証跡の査察において、注入シーケンスが削除されているのを確認した。しかしこの削除とその理由は記録されていなかった。データ収集前にシーケンスの削除を行う場合、注記や正当性の説明は不要であるとQCのスーパーバイザーが説明した。しかし、このことはSOPに規定されていなかった。監査証跡のレビュー方法はSOPに一般的に記載されているだけであり、異なったCDS(Chromatography Data System)ごとに固有の監査証跡機能をどのようにレビューするかCDSごとに規定していなかった。
E) 2023/8/29のQCラボ現場査察において、原材料の同一性試験を実施している分析者が、正当化や許可なくテストを3回実施しているのを確認した。QCマネージャーにFTIRの監査証跡をレビューしているか質問したところ、していないとの回答であった。
F) 分析機器操作のSOPに重要なアラームが規定されていない。
G) ラボおよび製造における気流を検証するために実施したスモークスタディの動画や写真が残されていない。
 

★解説:Observation 2-B)
「電子天秤の日時を分析者が変更できてしまう」との指摘である。業務の流れに従って査察する場合、天秤は上工程となるので早い段階における査察となり、査察官は元気に調査を行うことになる。したがって、天秤における日時調整の権限設定の指摘は非常に多い。機器・装置・システムのタイムスタンプは真正でなければならない。不都合な記録の改ざんや削除の動機を持ちうる試験や製造の実施・照査・承認を行う現場職員が日時を変更できると、記録のバックデートをしかねない。したがって、機器・装置・システムの日時調整権限を試験や製造の実施・照査・承認を行う現場職員に与えてはいけない。しかし、日時調整の権限者を限定できない天秤、つまりだれでも日時調整を行えてしまう天秤が多く存在する。そのような天秤に対しては、その機能ボタン(ファンクションボタン)にアクリル板やガムテープ等で物理的保護を付けて暫定対応することが考えられ、事例も散見される。

なお、PIC/Sの査察官向けDIガイダンス(PI 041-1)に以下の記載がある。
 8.9 電子システムからのプリントアウト
♢ 天秤など非常に単純なシステムからのプリントアウトにおいて
♢ タイムスタンプの変更によりデータ提示が影響を受ける可能性は限定的
この記載は天秤における日時調整の権限設定のあまたあるFDA指摘と相容れない。記録のタイムスタンプは記録の真正性を判断する重要な要素である。したがってPI 041-1の「8.9 電子システムからのプリントアウト」の記載は筆者には理解できないので、慎重に取り扱うことをお奨めする。なお、PI 041-1の取り扱いは下記条文を参照されたい。
 3.7節
♢ 本ガイダンスに法的拘束力はない
♢ DI不適合の判定は、各国の法律やGMP/GDPを基準とすること
(条文解説:監査や査察においてDI指摘を行う場合、このガイダンスの内容を基準とするのではなく、法令を基準として指摘すること)
 5.3.4節
♢ リスクに応じたデータガバナンスとすること
(条文解説:データガバナンスとはDIを保証するための方策の総称である。このガイダンスの内容をすべてDI保証の方策とするのではなく、リスクに応じてDI保証の方策とすること。リスクの判断は査察指摘事例を参考にするとよい)

 

 

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