再生医療等製品の品質保証についての雑感【第61回】

 

第61回:再生医療等製品の製品開発と製造工程開発とQbD (0) ~ そもそもQbDなんて...


はじめに
  本コラム(雑感)も60回を超えました。その間に3つのAMED事業に関わらせていただきました。クオリティ・バイ・デザイン(QbD)の基本的な考え方は、1つめの事業にて既に議論開始していたので、本コラムの開始間もない頃(第10回)より、継続的にお話しをしています。特に3つめの再生医療・遺伝子治療の産業化に向けた基盤技術開発事業(QbDに基づく再生医療等製品製造の基盤開発事業)では、あらためてQbDを検討する機会をいただいています。同事業も最終年度となり、成果の公表活動が始まりましたので、ここ(本年度)からは、その内容についての概説と、雑感を述べていきます。
 先ず本稿では、その前提として、そもそもQbDとはどんなものなのか、そしてその運用に不可欠な、品質マネジメントシステム(QMS)とGMPの関係について、筆者の認識を共有します。


● あらためてQbDとはどのようなものか
 QbDは、ICH-Q8(R2)の製剤開発に関するガイドラインにおいて、『事前の目標設定に始まり、製品及び工程の理解並びに工程管理に重点をおいた、立証された科学及び品質リスクマネジメントに基づく体系的な開発手法』と記されています。ただこれは、実のところ定義ではなく、単なるQbDに関する「活動の説明」です。そのためQbDについては、様々な解釈がされていると感じます。製薬分野では、本ガイドラインに記されるリアルタイムリリース試験(RTRT)の構築手法など、狭義の解釈で説明されていますが、細胞製造など他分野を議論する上では、特にそういった目標の制限は意味がありません。

 この活動の説明が何を示しているのかは、普通に文章を解釈すれば一目瞭然です。そう、これって単なる「QMSに関する活動の説明」ですよね。事前の目標設定とは、顧客満足を達成する品質の設定であり、製品及び工程の理解並びに工程管理に重点をおくとは、プロセスアプローチであり、立証された科学及び品質リスクマネジメントとは、客観的事実に基づく意思決定であり、目標である、それに基づく体系的な開発手法とは、マネジメントシステムそのものです。すなわち、QbDとはQMSであり、その過程はQMS七原則に準じ、特にプロセスアプローチを重視したものです。我々は、そのものすごく当たり前のことを、いまさらルフラン(繰り返し)しているだけなのです(笑)。

 QbDなんて単なるプロセスアプローチである。そう考え直すと、QbDの理解は非常に簡単です。QbDが従来のGMPよりもより高度に品質を管理・監督することを目的としつつ、プロセスアプローチを重視し、品質を構築しようとすることが目的ならば、その体系的な考え方は、下図に示すようなイメージになります。

図. QbDとして品質を体系的に構築するための要素とGMP(三原則)、QMS(七原則)との相関イメージ


 そもそも品質の構築においてQMSは不可欠です。QMSの基本的な考え方は、GMP/QMS省令でも第1~9章に記されており、GMP活動における根底に存在し、その本質は体制構築です。管理者を中心とした、トップダウンの組織が構築できていなければ、約束(≒品質)は実現できません。また逸脱も管理されず、是正・予防などの改善も達成できません。そして、GMPは、そのようなQMS活動を前提として工程の安定化を目指した、活動の上乗せです。当時(1990年代)の有識者はそのように認識しており、もともとGMPは規制ではなく、活動の基準(適正製造基準)です。GMPが規制そのものの名称とされているのは日本くらいです(笑)。(その弊害でしょうか..本分野ではQMSの理解度の低い方が散見されるので残念です。)

 さて、皆さんご存じの通り、GMP三原則は、人為的な誤りの最小化、品質低下の防止、品質を保証するシステムの設計です。QMSにて構築した「プロセス」について、パラメトリカルに運用し、「プロセスで結果を予測」できるようにすることで再現性と安定性を保証することです。すなわち、QMSにおけるバリデーション(適格性評価とプロセスバリデーション)の上乗せです。では、さらに上乗せ、すなわちQbDで構築すべきプロセスアプローチの最上位概念とは何でしょうか?
 答えは簡単で、「プロセスで結果を確定」することです。プロセスの機序に対し、多変量的にパラメータを理解することで、デザインスペース(DS)を構築し、それらを評価することで、結果ではなく、工程の理解並びに工程管理によって品質を確定することと認識します。工程の理解とは、工程解析技術(PAT)となるので、QbDは、PATで品質を評価するプロセスのシステムであると考えます。製剤開発の場合は、そのシンボルがRTRTであったと考察しますが、必ずしもそれがQbDの本質ではないです。QbDの目標は、従来よりも、より高品質を目指す最適化に向けた活動ですが、最適化では製品単価の低減という副次的な効果も期待できるので、チャレンジすることが望ましいです。


 余談ですが、多変量的にパラメータを理解することで目標の細胞品質を構築する手法は、近年、未分化iPS細胞が特定の組織細胞へ分化誘導する条件決定の実験法などに用いられており、QbD手法と記す文献が多く存在します。それらは、QbDそのものではないと考えますが、多変量的なパラメータで培養環境(≒DS)を構築し、特定の分化細胞への分化誘導工程を制御する、PATに資する技術開発と考えます。iPS細胞由来のヒト細胞加工製品の品質は、将来的にこれらのPATを用いて品質の確定が可能になると思います。(うちでは金美海先生らがそういう研究を行っています。)今後機会があれば、これらについてもお話しできればと存じます。
 


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QbDアプローチによる再生医療等製品のライフサイクルマネジメント戦略

 

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