【第8回】マイナスからはじめる生物統計学

症例数(n数)と信頼区間

1.視聴率操作の意味
 皆様はテレビの視聴率について、どのように測定されているのか疑問に思われたことはございますか?2023年2月の段階では、ビデオリサーチ社が全国32の地域において10700世帯を抽出して、特別な機械を用いて測定しているとのことです。2020年の国勢調査によれば、全国の世帯数は55830000世帯ですので、視聴率測定器が設置されている割合は10700/55800000=0.0002=0.02%程度ということになります。それでも2000年代初頭までは関東地域で600世帯程度、しかも主要地域のみで行われていたとのお話ですので、ずいぶんと大規模になったなと思う次第です。2000年代にはどこかのTV局のプロデューサーが、探偵を雇って視聴率測定器のある家を突き止めて買収したなどというお話がありました。当時は確か12世帯の買収に成功したことで、結果として12/600=0.02、2%の視聴率アップに成功したということでした。これほど大規模な調査になりますと、突き止めるのも買収に必要な費用も大規模になってしまうかと存じますが、600サンプルにおける2%の持つ意味とは果たして…?

2.割合の95%信頼区間
 連載第7回でお話ししました95%信頼区間ですが、もちろん割合においても求めることができます…と申しますか、多くの場合には求める必要があります。例えば視聴率のような割合の場合は、下記の式により95%信頼区間の下限値、上限値がそれぞれ求められます。

pには割合を、nにはサンプル数をそれぞれ代入します。もしも視聴率が30%だった場合、p=0.3、サンプル数は600を代入しますと、下限値は0.3-1.96×=0.264となり、下限値は26.4%となります。同様に上限値は0.336,すなわち33.6%なりますので、視聴率30%でも600サンプルの場合は、実際の視聴率は上下±0.036(3.6%)程度の範囲と推定されます。となりますと、12世帯(2%)を買収したとしても、それは信頼区間の範囲内の変動に過ぎません。600サンプルでの視聴率が30%と測定されたとしても、実際の母集団(くどいようですが、この場合は関東地区の全てのテレビのある世帯)の視聴率は26.4%~33.6%の間と推定されますので、結果として「買収は意味をなさなかった」ということになります。
 割合の信頼区間に関しましては、今後オッズ比等の考え方と共に改めて説明させて頂きます。この考え方は、ロジスティック回帰や比例ハザードモデルなど、高難易度(?)の解析方法を理解する上では必須になります。

 

 

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