ラボにおけるERESとCSV【第112回】
FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(82)
7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
■ NNNN 社2022/12/2
施設:製剤工場
■Observation 2 A)
QCラボにおいて実施した分析の紙記録をQCラボから非管理区域へFAX送信している。FAX受信した記録にはデータや日付の記入者が明示されていないが、その記録を非管理区域において最終化している。FAX送信前の記録を作成した個人、およびFAX受信した記録を最終化した個人が明示されていない。非管理区域へFAX送信されたオリジナル紙記録は管理区域に残されている。
(以上は、判りづらい483原文を補足しながら判りやすく意訳したものである)
★解説
上記の指摘は高薬理活性医薬品のQCラボ、すなわち封じ込め区域、における紙記録の取り扱いに関するものであると推測した。その推測のもと、上記指摘の状況をまとめると以下のようになる。
このような状況のもと、記録の信頼性(データインテグリティ)確保のために行うべきことを以下に解説する。
➣ 記録用紙の管理
紙の試験指図記録書が使用されていると解釈した。本483には指摘されていないが、得られたデータは改ざんや隠蔽を防止してすべて記録・保存しなければならない。そのため紙のブランク記録用紙には以下の要件が求められる。
- 記録部署によるコピーを防止
- 記録部署による破棄を防止
封じ込め区域にコピー機があるならば記録部署によるコピーが可能になる。その場合において上記要件を満すための方法一例を以下に示す。
➣ データレビュー
試験ごとにデータレビューを実施しその結果を記録しなければならない。
たとえばPIC/S 査察官向けDIガイダンス(PI 041-1)の「8.8 記録の検証(2次チェック)」には以下のように記載されている。
- ラボ記録のレビュー
- テスト完了に引き続き第2の分析者がデータレビューを行うこと
- 全ての入力と重要な計算を確認し、テストの信頼性を評価すること
本483にはこのQCラボにおいてどのような試験が行われていたか記載がないが、QCラボで使用している分析装置はほとんどの場合、オリジナル電子記録が生データとなる。その場合、機器からのプリントアウトではなくオリジナル電子記録により以下のようにデータレビューしなければならない。
- 監査証跡を含む電子記録によりレビュー
- 波形や画像の拡大によるデータ精査
- 自動および手動の解析内容を精査 など
このデータレビューは監査証跡を含む電子記録により、たとえば下記観点で行う必要がある。
- 権限なくデータやパラメータが変更・削除されていないか
- 使用したパラメータは正しいか
- 不都合な事象を隠蔽していないか
- 正当な理由なく繰り返し測定していないか
(繰り返し測定の妥当性を記録により確認) - 試し打ち(テストインジェクション)は妥当か
- 正当な理由なく手動解析/再解析をしていないか
- 手動解析/再解析の開始条件は規定を満たしているか
- 手動解析/再解析の内容は妥当か
- シングル・インジェクションは妥当か など
監査証跡を含む電子記録を参照してデータレビューしたことを記録に残すのが重要であり、試験記録には以下の署名と日付記入が必須である。
- 分析者の署名と日付記入
- データレビュアーの署名と日付記入
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