GMPヒューマンエラー防止のための文書管理【第2回】

2017/10/06 品質システム

1.  工程管理の記載
 ヒューマンエラーを招かないSOPや記録を教えてほしいと要望する方が多い。もし、そんなSOPが簡単に手に入るならそんなにラッキーなことはない。ヒューマンエラーが発生した時、SOPを確認しながら、作業をしたのかと確認されるだろう。GMPは、作業を行う際、手順書を見ながら行うことを求めていない。確かに、GMP省令第10条に「製造指図書に基づき製品を製造すること。」の記載がある。それは、SOPや指図を見ながら作業をすることを求めているのではない。レストランのシェフがレシピを見ながら調理をしていたなら、どう思うだろうか。まだ、新米シェフだと思い、心配になるであろう。日本には匠の技が多い。その匠の技を行う際に、マニュアルを見ながら作業をすることがあるだろうか。師匠の技を盗むという考えもある。
 電気製品等の多くは、操作マニュアル等の手引きがある。皆さんは、そのマニュアルを購入時に読みこなしているだろうか。最初の接続等の部分ぐらいは読むかもしれないが、トラブルでもない限り読むことも少ないのではなかろうか。あの分厚いマニュアルのどこを読むべきか探すのも苦労することと思う。日本の法令は、法令単独では分かりにくく、施行通知や運用通知が発出、Q&Aが事務連絡として交付され、それらを合わせて読むことで内容が理解できることが多い。行政担当者がそのすべてを頭に入れて対応しているわけではない。
 私が在籍したコーア商事で製造管理者であった尾林君の面白いたとえ話をここで披露したい。以下のとおりの駅から会社までの朝の通勤SOPを作成する時を考える。
 
通勤のSOP
  駅 → (バス:料金170円、約15分) → 会社 
工程管理値:バス代 (¥100玉×1個)+(¥50玉×1個)+(¥10玉×2個)
 
 現場で作業に間違いが起こらないように詳細な手順を求められることが多い。しかし、この場合、バス代として、200円を支払って、お釣りをもらった時やPASMOやSuicaのような交通ICカードを利用すると逸脱になるかとの論議であった。通勤なら定期券でしょという意見はご尤もですが、今回の検討からは除外していただきたい。この場合、重要な管理値は何か、それは、逸脱した時に品質に影響する可能性があるものを設定する必要がある。では、このケースにおける重要パラメータは何かを考えると、会社の始業時間に間に合うことで、駅から会社までの手段は徒歩であっても、電車に乗り遅れて、タクシーに乗ろうと、間に合えばいいとも考えられる。しかし、製造販売承認書の記載内容に、その手段の記載は必要であろう。バスを利用すると規定して、その時間をパラメータにすると渋滞になって、30分かかり、始業時間ぎりぎりになったとする。規格である始業時間に間に合ったが、作業時間が15分のところ30分になったことは逸脱かと議論になろう。
 例えが関係ないと思わず、皆さんの職場で考えてもらいたい。実際、こんな状況のSOPは多いと感じる。製造販売承認書との齟齬の問題にも関係することであり、医薬品の品質に影響する管理に間違いが起こらないようにSOPを作成することが重要である。

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執筆者について

中川原 愼也

経歴

GMPコンサルタント
1984年神奈川県庁に入庁し、1997年国立公衆衛生院(現在の国立保健医療科学院の前身)でGMP研修を受講後、薬務課及び小田原保健所等で医薬品等の製造販売業、製造業の許認可、審査、指導を主にGMP・GQPリーダー査察官として16年にわたり活躍した。その間、MRA(日・欧州共同体相互承認協定)の締結の際のEUの調査、2005年の製造販売承認制度の施行に携わり、PIC/S加盟にあたり、厚生労働省の委員等委嘱を受け、次の活動に参加した。
平成20、21年度 GMP/QMS調査・監視指導整合性検討会委員
平成21、22年度 厚生労働科学研究~GMP査察手法の国際整合性確保に関する研究
2012年に神奈川県庁を退職し、医薬品原薬輸入商社であるコーア商事株式会社で、品質保証部長として国内管理人としてのGQP取決め及び医薬品製造業としての GMP管理を統括した。2015年から株式会社ファーマプランニングにて、GxPコンサルタント業務に携わる。2017年高田製薬株式会社に入社、大宮工場の製造管理者、品質統括担当参事を経て、2021年より生産本部顧問に就任。同年より中間物商事株式会社品質保証部部長として勤務。
2021年11月より、共和薬品工業株式会社鳥取工場品質保証部長となる。
2022年4月からGMPコンサルタントとして独立したが、2023年2月硬膜動静脈瘻に疾病し、言語障害となった。退院後、自宅にてトレーニングし、完治。8月にネオクリティケア製薬株式会社品質保証部に入社、従来通り活動をしている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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