医薬品の技術移転のポイント【第24回】

2)技術移転時の判断基準

(1)判断基準の設定について
 どこまでのバリデーションを行うか迷います。その判断材料として下記があります。
  • 設備が同じかどうか
  • SOP通りにできるかどうか
  • 製造販売承認書との一致について

判断基準
軽微変更;過去2年以内のGMP適合性調査を同じライン/同じ設備で受けていて
     製造方法やパラメーターが軽微変更範囲内
迅速一変申請;製造方法やパラメーターが軽微変更範囲内
一変申請;変更が軽微範囲を超えている

事例:製造プロセス、製造装置が同じかどうか(軽微変更と一変申請の判断)
 過去2年以内に該当する工程/設備でGMP適合性調査を受けている&変更は軽微範囲内と判断し製造所追加が軽微変更でできると生産本部は判断しました。しかし、よく聞いてみるとまったく同じ設備ではないために、同じ原理の設備と県がみなしてくれるか疑問いに思いました。つまり、軽微変更ではなく一部変更申請の可能性が高いと判断しました。そこで、委託先にお願いして県に相談してもらいました。その結果「これは一部変更申請が必要」との回答でした。相談せずに軽微変更届を行って、後日「これは軽微変更届でない。一部変更申請である」と判断されると、その軽微変更届は取り消され、その軽微変更で製造し出荷した製品は回収になる可能性が大でした。またそのため欠品を来していたかもしれません。このように軽微変更届/一部変更申請の判断は難しいです。特に一部変更申請に近い場合は、必ず当局相談を行い、リスクを減らすことです。

(2)過去2年以内に該当する工程/設備でGMP適合
 このような選択肢もあります。委託先には製造所AとBがありました。今回製造所Bに製品の製剤製造工程を委託することになりました。製造所Bは委託する製剤と同じ工程のGMP適合性調査を過去2年以内に受けていませんでした。そこで、委託先の製造所Aの製品の中で委託する製品と同じ工程を持っている製品をB製造所追加する一部変更申請を行ってGMP適合性調査を受けてもらいました。これにより、過去2年以内に同じ工程がGMP適合性調査を受けたことになり、委託先に製品を軽微変更で行いました。
 一部変更申請、迅速一変、軽微変更によって、確保する製品の物量が大きく異なってきます。今は変更にレギュレーション変更が伴うため、判断ミスが欠品につながるリスクが高まっています。

3)同等性評価の確認:溶出挙動の4液性での評価
 なかなかジェネリック品が普及しませんでした。3割程度が頭打ちでした。当時大蔵省は薬剤費を下げるには、薬価だけでなくジェネリックのさらなる普及が必須との判断をしました。しかし、ジェネリックが普及しないのは、現場の医師が先発品とジェネリック品で服用後の血中濃度の違いで有効性と安全性に疑義を持っていたからと思われます。本来ジェネリック品も服用後の人による血中濃度の違いが先発品と差がないデータを取って承認されています。ですから同じはずなのです。しかし、実際は人による試験は個体差が大きくバラツキがどうしても大きくなり、先発品との差を検出できなかったのです。
 大蔵省は厚労省に協力を求め、厚労省は先発メーカーが加入している製薬協に協力を求めました。先発メーカーが溶出試験方法確率+4液性の溶出プロファイルをジェネリック品の普及のため(先発品の売り上げが低下)に協力しなければならなくなりました。たぶん拒否すると関係性の悪化、また国立衛研と全国の衛研を使ってやられたと思いますが、大変な労力が予想されました。結果として協力することになりました。
 この差を検出するには、人での試験(バラツキが大きい&費用と時間がかかる)ではなく溶出試験が良いとの国立衛研の先生の考えにより溶出試験で先発品とジェネリックとの差を見ることになりました。ちょっとした差までも見ることができるように、溶出試験のパドルの回転数を50回転というとても遅い回転数に拘わられました。この50回転がその後の安定性モニタリングでも溶出試験不適合による多くの製品回収につながっています。
 この溶出試験プラス4液性(pH1.2、pH4.0辺り、pH6.8、水)での溶出プロファイルを測定し、ジェネリック品は先発品の溶出プロファイルに同等(判定基準は示されている)であった場合認められ、同等でないものは溶出改善を行うか、品目整理を行うかの選択肢になり、多くのジェネリック品は先発品に合わせる取り組みを行い、認められました。先発品の4液性の溶出プロファイルは日本薬局方外医薬品規格第三部(通称オレンジブック)に収録されています。
 これにより、ジェネリック品は先発品とほぼ同等の服用後の血中濃度になり、一気にジェネリックが拡大し、現在は約8割までになっています。
 ところがある大学で学生に医療用医薬品の4液性を測定させたところ、その三部に収載された溶出挙動と異なっている製品があり、論文として投稿されました。本来先発品と同等なのに異なっていると、ジェネリックを認めたことが間違いだとなります。何とかしなければいけないとのことで出来たのが下記の検討委員会です。

ジェネリック医薬品品質情報検討会 https://www.nihs.go.jp/drug/ecqaged.html
 ジェネリック医薬品の品質に対する信頼性の確保は、厚生労働省が進める使用促進策の柱となっています。国立医薬品食品衛生研究所では、「後発医薬品の安心使用促進アクションプログラム」と「後発医薬品のさらなる使用促進のためのロードマップ」の一環として平成20年に「ジェネリック医薬品品質情報検討会」を組織しました。 本検討会では有識者の協力を得て、ジェネリック医薬品の品質に関する情報について学術的観点から検討するとともに、必要な試験・評価を実施しています。

 先発品とジェネリック品で4液性の溶出プロファイルが異なっていると”同等”と言えません。そこでジェネリックメーカーに改善を指導しました。中には先発メーカー品も知らない内に、三部に記載された溶出プロファイルと異なっていました。たぶん当局は先発メーカーにも指導されたと思います。
 このことを知り、技術移転時、製造方法変更時など、必ず4液性を確認することを社内の変更時の確認項目に追加しました。それまでは技術移転しても溶出試験だけで4液性の溶出プロファイルの同等性まで確認していませんでした。実際、調査したところ、異なっている製品があり、改善検討テーマに登録して改善しました。
 各社は変更時、溶出試験は規格に入っていますので確認していますが、4液性の溶出プロファイルの同等性まで確認しているでしょうか。
 

 

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