ラボにおけるERESとCSV【第101回】
FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(71)
7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
■ CCCC社 2020/1/31 483 2/2
施設:原薬・製剤工場
Observation 1とObservation 2については前回連載 を参照されたい。
コンピュータ化システムの管理が不適切であり、権限のないアクセスや変更からデータを保護できていない。例えば;
★指摘①の解説
記録のタイムスタンプは真正でなければならない。GMP操作を行う職員、照査・承認を行う職員は自らが関与した記録の改ざん動機を持ちうる。従ってそのような職員がGMP規制下で使用されている機器・装置・システムの日時を変更できると指摘される。また、記録のタイムスタンプのタイムゾーンが不明確であると真正な記録とはならない。そのため、タイムゾーンは下記のA)もしくはB)のように管理しなければならない。
タイムゾーンを含む日時表記方法の例:
日本時間の2023年3月28日 午後3時45分なら日本は UTC(Universal Time Coordinated:協定世界時) から 9 時間進んでいるので、以下のように表記される。
2023-03-28 15:45 +09:00
(UTC時刻:2023-03-28 6:45)
あるいは以下のように表記することもある。
2023-03-28 15:45 JST (JST: Japan Standard Time 日本標準時)
A) 時刻表示にタイムゾーンが含まれる場合
- 例えば、タイムゾーンを日本から台北に変更すると以下の表記となる
2023-03-28 14:45 +08:00 - 時差が表示されているので、絶対時刻の改ざんにはあたらない
(UTC時刻:2023-03-28 6:45) - ただし、時差を見落とすと絶対時刻の判断を誤る
- 従ってタイムゾーンを変更できないよう保護するのが無難であろう
B) 時刻表示にタイムゾーンが含まれない場合
- 例えば、タイムゾーンを日本から台北に変更すると以下の表記となる
2023-03-28 14:45 - 時差が表示されていないので、台北時間であることが判らない
- すなわち、絶対時刻は改ざんされていないが、表記時刻は改ざんされていることになる
- 従ってタイムゾーンを権限無く変更できないよう保護する必要がある
★指摘②の解説
「タイムゾーンが変更できるとデータの削除や上書きにつながりかねない」とのことである。日時が変更できると日時をバックデートして試験をやり直し、初回のデータを削除しバックデートしたデータで置き換えることができるので確実に指摘される。では、タイムゾーンが変更できる場合はどうであろうか。タイムゾーンを変更できる場合のリスクをA)とB)に場合分けして上述した。
また、B)の場合はどのタイムゾーンにおける時刻表記であるかをどこかに明記しておく必要がある。例えば、事業所のトップレベル規定に「本事業所における時刻表記は日本標準時とする」と記載しておく。さもないと、A)のような時刻表記に慣れ親しんだグローバルな査察官やオーディターに指摘される可能性がある。
なお、個人配布されたPCを海外で使用する場合、タイムゾーンをその地域に合わせる必要がある。すなわち、個人配布されたPCのタイムゾーン変更を一律に禁止することは難しい。そのような場合、そのPCの時刻がGMPデータのタイムスタンプに影響しないことを確認しておくとよい。
★指摘③の解説
HPLCやGCなど再解析可能な機器における指摘であると考えられる。解析が確定したら以降の解析を禁止するよう電子記録をロックする必要がある。プリントアウトに手書き署名する場合、電子記録をロックしてからプリントアウトに手書き署名する必要がある。電子署名する場合は、その電子署名により電子記録がロックされるのが一般的であろう。
★指摘⑤の解説
試験や製造を実施・照査・承認する職員がシステム管理者権限を持っていると、自らが関与した記録の改ざんができるので指摘される。
★指摘⑥の解説
ラボであれ製造であれ、監査証跡を含む電子記録により日常データレビューするのがデータインテグリティの基本である。またシステム管理者が不適切な操作を行っていないかQAはシステム管理者の監査証跡を抜き取りレビューする必要がある。
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