プロセスバリデーションについての考察

1987年、FDAがプロセスバリデーションの概念を世界で初めて発表したとき、プロセスバリデーションとは、「そのプロセスが、目標とする品質の製品を恒常的に製造できることを保証する証拠を確立し文書化すること」と定義され、全ての医薬品の製造プロセスをバリデートすることが求められた。世界の製薬企業は、恒常的に製造できる証拠とはどのようなものか悩んだあげく、特に根拠もなく連続3バッチの成功をもってプロセスバリデーションが成立するとして対応してきた。このような考え方が定着してしまうと、変更管理の煩わしさから、一旦プロセスバリデーションが成立したプロセスを改善するという意欲をなくす製薬企業が増え、プロセスバリデーション導入の意義から、すなわち医薬品の品質を向上させるというGMP本来の目的から外れる結果になって来た。

このような状況を打破するために、2011年、FDAはプロセスバリデーションのガイドラインを改訂した。この新しい定義では、プロセスバリデーションとは、「そのプロセスが、目標とする品質の製品を安定的に供給できることを示す科学的な根拠データをプロセス設計段階から商業生産を通じて収集し評価すること」とあり、製品のライフサイクルを通じて、必要なデータを収集し評価する活動であるとした。

すなわち、プロセスバリデーションとは、連続3バッチの成功というような一過的な活動ではなく、医薬品のライフサイクルを通じて、継続的にプロセスを改善していく活動であると定義し直したわけである。プロセスの開発から始まり、従来のプロセスバリデーションすなわちPPQ(Process Performance Qualification)を経て、商業製造での継続的ベリフィケーションに至る、医薬品のライフサイクル全体通じて必要なデータを集めて評価する全ての活動をプロセスバリデーションとする考え方である。

ここで、改めてプロセスバリデーションの進め方について考えてみよう。製造プロセスは、製法・原料・設備・人の4要素から成り立っている。すなわち、指定された原料を指定された設備にインプットし、指定された人が指定された製法に従って作業すれば、目的とする製品がアウトプットとして得られるシステムとみなすことができる。
これら4要素をクオリファイし、すなわち、研究開発段階で、原料と製法をクオリファイし、製造設備をクオリファイし、作業者をそのプロセスに適するように訓練して初めて、次のステップPPQの段階に進むことができる。PPQが成功裏に完了して、商業生産が開始され、実生産で得られたデータを解析し、製品のライフサイクルを通じて品質の改善を目指す、これら一連の活動すべてをプロセスバリデーションと呼ぶ。

このFDAの新しい定義は、非常に大きな考え方の転換点であったが、最新のPIC/SのGMPも、残念ながら、連続3バッチの成功という一過的な活動をプロセスバリーションとする従来の安易な考え方から脱却できていない。「連続3バッチの成功」は、FDAの言うPPQに相当する。PPQが完了しても、プロセスバリデーションは完了していないことに留意して頂きたい。一旦定着した概念を覆すことの難しさを感じます。

これら四要素の中で、製法と原料については、小スケールの実験でその適格性を厳密に証明することができ、設備についても、DQ、IQ、OQ、PQを通じてその適格性を科学的に証明することができる。しかしながら、残された要素である人については、教育訓練・経験以外に適切な手段がなく、厳密にはその適格性を保証することができない。この状況は、運転免許を有し素晴らしい運転技術を持つ人であっても、事故を起こす危険性はゼロではないことに似ている。失敗しない人間はいないと言う意味で、人や作業者は厳密な意味で適格性を保証することはできない。従って、人が介在しないプロセスを開発しない限り、完全なプロセスは存在せず、プロセスバリデーションは成立しないと考えるべきである。

以上、述べてきたように、人が介在する製造プロセスは完全にはバリデートすることはできない。我々ができることは、プロセスの構成要素(原料・製法・設備・人)の適格性評価と製造バッチ毎のベリフィケーションを継続することであり、この全体的な活動こそがプロセスバリデーションであろう。

 

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