ラボにおけるERESとCSV【第98回】

国内におけるデータインテグリティ観察所見を引き続き解説する。
FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(68)
7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。
■ AAAA社 2019/11/26 483
施設:製剤工場
★解説
■フィルター完全性試験とは
注射剤などの無菌医薬品はろ過滅菌によって無菌性を担保することが多い。そうした用途のろ過滅菌用フィルターとその使用方法に問題があり適切にバクテリア除去が行えない場合、投与される患者に対する安全確保はもちろんのこと、製造する企業に対してもさまざまなリスクを生じさせることになる。そのため、ろ過滅菌用フィルターの完全性試験はろ過滅菌能力を予知・検証するために行う極めて重要な試験であり、高い信頼性を求められることからデータインテグリティの確保は必須となっている。
■フィルター完全性試験の留意点
ろ過滅菌用フィルターの完全性試験に関するポイントを以下に記載する。
- ろ過滅菌用フィルターの欠陥は患者に対するリスクとなる
- ろ過滅菌用フィルターの完全性試験における偽合格は許容されない
- ろ過滅菌用フィルターに問題がなくてもフィルター完全性試験において不合格となることがありうる。その要因は以下のようなものが多い
- フィルターの湿潤不足
- 不適切な試験温度管理
- 試験系からのリーク
- ろ過滅菌用フィルター完全性試験の結果が不合格になった場合、不合格結果に対して調査を行う必要がある
- ろ過滅菌用フィルターの完全性試験不合格は最終製品の出荷可否にかかわるため、経済的損失につながる可能性がある
■フィルター完全性試験の管理
ろ過滅菌用フィルターの完全性試験は製造部門において実施するのが一般的であるが、以下の理由によりQCラボと同程度のデータインテグリティ対応が必要である。
- ろ過滅菌用フィルターの完全性試験は患者の安全確保にリスクがある可能性がある
- 試験操作に起因して不合格の試験結果となることがある
- 不合格の結果となった場合、再試験により試験結果を確認する
- 再試験により合格と判定する場合、その判定根拠を説明できるように記録する必要がある
- その判定根拠の妥当性を記録により評価し照査・承認しておく必要がある
- フィルター完全性試験における再試験の妥当性評価を確認してから製品出荷判定を行う必要がある
高い信頼性を求められるフィルター完全性試験におけるデータインテグリティ対応のポイントを以下に記載する。
(データの完全性/網羅性)
② データの真正性を確保
③ データレビュー
④ QAレビュー
⑤ 完全性試験不合格の場合における適切な対応
上記①②の具体策
機器からのプリントアウトは破棄が可能であるので、プリントアウトだけではデータの完全性/網羅性を証明するのは難しい。以下の具体策を講じるとよい。
- 実施した内容すべてを電子記録で保存
- その電子記録は改変削除から保護(含バックアップ)
- タイムスタンプの真正性確保
上記⑤の具体策
OOSとOOTの下記ガイダンスに従うとよい。
(OOS:Out Of Specification OOT:Out Of Trend)
- FDAのOOS調査ガイダンス
Guidance for Industry, Investigating OOS Test Result for Pharmaceutical Production
(Rev.2 2022/5)- ファームテクジャパンの下記記事にて初版ガイダンスを解説
データインテグリティ実務対応の留意点
第3回:FDAのOOS調査ガイダンス概要とデータインテグリティ対応(2018年2月)
- ファームテクジャパンの下記記事にて初版ガイダンスを解説
- MHRAのOOS/OOT調査ガイダンス
Out of Specification & Out of Trend Investigations
(Rev. 2017/10)
https://mhrainspectorate.blog.gov.uk/2018/03/02/out-of-specification-guidance/
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