再生医療等製品の品質保証についての雑感【第41回】

2022/09/09 再生医療

水谷 学

前回に引き続き、2016年に執筆した、特定細胞加工物製造における製品汚染に関する論文の内容について解説をする。

細胞加工製品の品質管理 (1) ~ 原料組織の輸送による劣化

はじめに
 先回より引き続き、以前に発表した論文を紹介させていただきます。今回も、前回ご紹介したBIJ社(株式会社日本バイオセラピー研究所)での自己由来活性化免疫細胞製造についてです。原料組織(末梢血)が、1日程度の輸送の有無により、最終加工物にどの程度の影響(違い)が生じているかについて、回顧的に検証を行いましたので、その内容について概説します。論文は、2019年にRegenerative Therapy誌で掲載されました。


● 輸送による原料の劣化の可能性
 BIJ社における末梢血(50 mL)からの自己由来ナチュラルキラー細胞(NK細胞)の製造は、依頼を行う医療機関(提供計画)により、異なる輸送方法や培養期間が複数存在します。そこで、細胞加工施設と同じ都内にあるクリニックA(164バッチ)での事例と、福島にあるクリニックB(292バッチ)での事例を用いて、輸送手順の違いによる原料細胞の劣化について評価を実施しました。採取後から細胞単離処理開始までは、輸送・保管を含め、クリニックAでは当日内(数時間)、クリニックBでは翌日となります。保存温度は常温帯(15~25℃)です。
 原料に生じる劣化は、主に、回収された単核球の数(細胞数)と、見かけ上の比増殖速度(μapp)により評価しました。結果として、末梢血より回収された細胞数は、平均で、表1のように、クリニックAで採取された原料では33百万個でした。対して、クリニックBで採取された原料では31百万個と、値はわずかに下がりますが、顕著な差異は生じませんでした。加工後の細胞数と、培養日数が異なるので直接比較はできませんが、ほとんど差異は認められていません。

表1. 各医療機関での回収細胞数(培養前・後)と比増殖速度(論文表2より引用)

 また、回収した単核球の活性を評価するため、初期(0日目から9日目までの間)の比増殖速度の比較を行うと、表2のように、値として明らかに不適なμapp<0を示した事例(全456バッチ中12件)を除けば、いずれも0.17で、差異は認められませんでした。したがって、採取組織(末梢血)の保管・輸送時間による劣化は、少なくとも本事例での翌日まで(24時間まで)の評価では、許容できることが確認されました。

表2.  各医療機関における初期の比増殖速度(論文表3より引用)

 

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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