再生医療等製品の品質保証についての雑感【第40回】

2022/08/12 再生医療

水谷 学

2016年に執筆した、特定細胞加工物製造における製品汚染に関する論文の内容について解説をする。

細胞加工製品の無菌製造法 (2) ~ 無菌性を保証できない原料での製造 その1

はじめに
 今更なのかもしれませんが、小生が過去に縁を持たせていただいた細胞加工機関(株式会社日本バイオセラピー研究所: BIJ)において、2010年から2014年の5年間における製造(約3万バッチ)で生じた、製品への微生物混入事例について、2016年にRegenerative Therapy誌で発表しました。(BIJ社には、データのみならず、論文への細胞加工施設のレイアウト図共有など、多大なご貢献をいただきました。)今回は本論文についてご紹介とともに、無菌製造に関わる雑感を述べさせていただきます。


● 偶発的な混入の検出可能時期と発生率
 BIJ社における末梢血(50 mL)からの自己由来活性化免疫細胞(NK細胞やT細胞)の製造では、培養培地に抗生剤等を添加していません。そのため、増殖性の微生物(菌・真菌)が混入した場合には微生物の増殖(濁り)が検出されます。増殖性微生物は、前回で示した通り、経験的に混入後数日から1週間程度までの培養で確認が可能となるため、汚染を検出した時期と、汚染源より、汚染リスクの分析を試みました。
 汚染リスクは、工程内容により、全培養期間(21日間)を初期(1~3日目)、中間期(4~10日目)、および後期(11日目以降)に分割し、増殖性微生物の混入経路を予想しました。分割の考え方は、前回(第39回)での、「血小板製剤の微生物混入は、4日目までは無菌試験でも検出されない」より、目視の確認であることなどを加味し4日目より切り分け、濁りが確認されるまでのタイムラグを考慮し、10日目までを中間期としました。
 結果として、下表のように、5年間で29,858バッチの実施例を確認し、その中で、微生物混入が生じていた18件について評価を行いました。混入事例のうち、13例は想定通りに中間期に検出されましたが、5例については初期に検出されました。また、後期での微生物混入は検出されませんでした。後期では、培養バッグを用いた閉鎖系に近い培養が行われるため、作業上で逸脱無く実施できていれば、その間は、非常に高い確率で、無菌操作が再現性良く達成できていると考察しました。


 培養の初期から中期においては、受け入れ原料あるいは作業において、偶発的な微生物の混入があると認識します。原因が前者であるか、あるいは後者であるかは、本検討で区別をつけることは困難と考えます。ただ、Staphylococcusの混入で評価・考察すれば、表2より、全て6~9日目に検出されていることより、概ね文献と一致しており、培地中/37℃でも、大きく変わらない期間(引き抜きの無菌試験より少々遅め?)で、0日目に含まれるものが検出されることが想定されます。これに対し、0~3日目に検出された事例では、混入した微生物は、培地中/37℃で増殖速度が大きい、あるいは混入量が多い(採血時の想定混入量よりも大きい)ものであることが想定され、単核球の単離時に混入した可能性も否定できないと考えますが、本検では例数が少なく評価できませんでした。むしろ、上述した期間以外でのStaphylococcusの検出例が無く、総合的な混入率が0.06%と、過去の血小板製剤での文献値(0.08%)と同等以下であり、培養作業時における混入を明確に示せるエビデンスは見つけられませんでした。まだまだ十分な情報量とは言えず、より詳細な解析を行うためには、継続的に評価を行うことが必要と考えます。

 

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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