GMP/GCTPケーススタディ【第2回】

省令が適用されない物品との設備共用(GMP省令第9条第2項)

 5月にGMP指摘事例速報No.2 ⑴が掲載されたので、GMP省令及び事例集(2022年版)等の記載を含めて考察します。前回同様、筆者の立場上、当局の情報を得ているわけではなく、また、当局や所属する組織の意向を代弁するものでもなく、あくまでも経験に基づく個人的見解であることをご了承ください。
 速報(Orange Letter: O/L)No.2は「薬理作用・毒性が不明な物品を取り扱うリスクについて」と題しています。
 指摘事例は、「医薬品を製造する作業室で、薬理作用・毒性が不明な治験薬を製造していた事例」となっています。先ず疑問となるのが、作業室なのか製造設備なのかということで、交叉汚染にフォーカスすれば共通接触表面を介す製造設備がポイントですが、省令では「作業室」単位のくくりとなっています。承知のとおり、製造設備ではcontact surface、作業室はnon-contact surfaceとなり、non-contact surfaceは洗浄バリデーションの理論からは外れます。しかし、交叉汚染のメカニズムや第9条全体の建付けから、先ず作業室単位で考えることは規制の枠組みでは論理的な側面もあり、公布通知に解説されるようにいわゆる閉鎖系設備の場合は作業室単位とはならない(ただし、ソフト面での管理の保証を含む)と判断できることになります。この点を含めて、今回の改正省令の交叉汚染/設備共用の考え方については、別途事例研究する予定ですが、ここで、第9条の建付けをおさらいします⑵。第9条は第1項及び第2項から構成され、第1項は省令が適用されるもの(すなわち医薬品)との共用で、大筋では改正前と同じですが、第5号では薬理活性や毒性からリスクベースで共用を判断することを、PIC/S GMP(関連するガイドラインではHBEL)等のグローバルの流れから追加しています。第2項は省令が適用されないものとの共用で、過去の指導事例から厚労科研班が起草し、改正前にはなかった第2項を新設しました。O/Lの背景の冒頭に、「GMP省令が『適用されない』物品の製造作業を、原則禁止」とありますが、そのとおりで、第2項は省令が適用されない物品との共用を本来禁止していて、その本質は共用の余地を認めようとしている規定ではないことに留意が必要です。しかしながら、これまで認めてきている部分もあり、共用する場合のハードルをつけています(少しでも不十分なもの(データ)があれば、第2項の原点に帰って禁止という判断がとられます:後述)。検討段階では慎重に、いくつかのPIC/S加盟当局のメンバーにも対応を確認し、PIC/S Part 1にもあるようにいわゆるnon-medical productsは共用がほぼ許容されない海外状況も考慮しています。なお、例えば食品はだめなのかという質問も過去にありましたが、食品だから安全とは一概に言えず、食物アレルギー等を考えると、寧ろ第2項第1号が適用される可能性も考えられます。日常生活の感覚で大丈夫と判断せず、省令が適用されない物品は第2項に準じて一から評価していく必要があります。
 GMP省令改正案を検討した研究班では、第2項に書かれてある「ただし」書きの部分については、例えば治験薬を想定していました。治験薬であれば、薬理活性や毒性のデータを残留基準に用いることができるだろうとの想定によります。O/Lの事例に戻りますが、そもそも治験薬と共用する際に、このような省令改正があり、薬理活性や毒性等の基準値設定に関わるところが規制上必須になっていながらそのデータが入手されていないというのはいかなる背景だったのでしょうか。EU GMPの専用化に係る章の改訂が2013年頃、その後HBELガイドラインがEMAから発出され、PIC/Sへと展開、この間国内当局がPIC/S加盟して、グローバルに整合するGMP省令改正の流れへと規制が動いていました。この指導事例が最近のもの(施行後)であれば、被監査側やその委託側の規制動向への疎さが伺えます。より厳しい判断が下されれば、当該治験薬との共用によって影響を受けた(影響不明を含む)市場出荷製品の影響評価と自主回収の判断も求められうるような事例でもあったでしょう。

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