ラボにおけるERESとCSV【第89回】

2022/05/06 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

国内におけるデータインテグリティ観察所見を引き続き解説する。

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(59)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見 (Observation) の概要を紹介する。

■SSS社 2019/10/7 483
施設:中間体製造工場

■Observation 1
機器のOQが完了したら機器使用記録(ログブック)を使うよう規定されている。しかるに製造した中間体を保存している冷蔵庫に機器使用記録が備え付けられていない。製品保存室に冷蔵庫が何台かありそれらは中間体保存の適格性評価を受けているが、どの冷蔵庫にも機器使用記録がない。

★解説
FDAの査察において機器使用台帳(ログブック)は以下の点で指摘を受けやすい。
  ▶ ログブックが備え付けられていない
  ▶ 記入もれ
  ▶ 同時記録性
機器使用台帳(ログブック)はFDAのcGMPにおいて以下のように規定されている。

§211.182 機器の清掃・使用ログ
  ▶ 機器を異なる品目の製造や検査に使用している場合
    機器を清掃、保守、使用するときには、各機器の使用記録(ログ)に使用日時、品目名、
    ロット番号などを記載しなければならない。
  ▶ 特定の品目に限定して機器を専有使用している場合
    機器の使用履歴は製造記録により判るのでこの限りではない。

また、各機器の使用記録(ログ)は(定期的に)照査が必要であるとの解釈があり、照査していないとFDA査察において指摘されることがある。従って、あらかじめ定めた者が所定の頻度で使用記録を確認しその確認記録を残すことが実践規範となる。

機器使用記録の目的
トラブルや苦情の原因調査を行う場合、その機器をいつ誰が何に使用したかの履歴情報が必要になる。つまり、トラブルや苦情の原因調査およびその原因の波及範囲(対処すべき範囲)の調査に必要となる。これらの調査においては下記のcGMP要件を満たしていないと査察において指摘される。
 §211.192 製造記録のレビュー
  ▶ OOSとなった場合、十分な調査を行うこと
  ▶ その調査は同じ品目の他バッチ、あるいはそのOOSが関連する品目にまで広げること
  ▶ その調査は記録し、調査記録には結果とその後の対応を含めること
 §211.22 (a) 品質部門の責任
  ▶ エラーが十分に調査されたことを品質部門が保証すること

機器を誰がいつ何に使用したかの履歴が機器の電子記録に自動保存されている場合、機器使用記録を別途備え付ける必要はないとの意見がある。しかしそれは正しくない。機器を電子的に操作することなく機器の清掃や保守を行った場合、その履歴は機器の電子記録に残らない。従って、機器を誰がいつ何に使用したかの履歴が機器の電子記録に自動保存されている場合においても、電子的に機器操作することなく行う清掃や保守の作業を記録すべく機器使用記録を別途備え付ける必要がある。

「特定の品目に限定して機器を専有使用している場合、機器の使用履歴は製造記録により判るので機器使用記録を別途備え付ける必要はない」とのことであるが、その機器になされた清掃や保守など製造以外の全作業が時系列に把握できるようになっている必要がある。従ってこのような場合においても、機器使用記録は有益である。

機器使用台帳(ログブック)は紙に手書きするのが一般的であると思われる。その場合、紙記録のデータインテグリティ対応が必須となる。その出発点は記録用紙、つまりブランク用紙の管理である。ブランク用紙を適切に管理していないと、新たなブランク用紙に記載しなおし不都合なオリジナルデータを破棄することができてしまう。このようなことを防止するためにブランク用紙には以下の管理が求められる。
  ✓ 権限者のみがブランク用紙を発行できること
  ✓ GMP作業に係わる職員にブランク用紙の発行権限を与えないこと
  ✓ 発行管理されたブランク用紙をコピーできないこと
  ✓ 発行したブランク用紙数と使用したブランク用紙数の帳尻をあわせること
    (ブランク用紙を破棄していないことを証明できること)

製造や試験において使用するブランク用紙をGMP従事者がコピーできると、不都合な記録や書き損じ記録を破棄し新たなブランク用紙に記録しなおすことができてしまい、そのような可能性が指摘される。MHRA(英国医薬品庁)、WHO、FDA、PIC/Sのいずれのデータインテグリティガイダンスにおいても、このような事を防ぐよう記載されている。その対策の一例を示す。
  GMP作業を行わない部門が記録用紙を用意しGMP作業部門に送付する
  送付する記録用紙の各頁に、頁番号、総頁数、送付者のサインを記入しておく
  送付枚数は要求枚数より若干多目にしておく
  GMP作業完了時に、送付した全記録用紙を送付部門が回収し、全数回収を確認する

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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