ラボにおけるERESとCSV【第86回】

2022/02/10 施設・設備・エンジニアリング

望月 清

国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

FDA 483におけるデータインテグリティ指摘(56)


7.483における指摘(国内)
前回より引き続き、国内企業に対するFDA 483に記載されたデータインテグリティ観察所見(Observation)の概要を紹介する。

■ QQQ社 2019/09/26  483 その2
施設:製剤工

■Observation 1
B)    オリジナル電子生データが改変から保護されていない。

  1. 製品のリリーステストに使用するHPLCを制御するEmpower3のプロジェクトフォルダーのアクセスを制限していない。Empower3に収集された電子生データを分析者はノートPCから翌年の1月までアクセスできてしまう。
  2. 製品のリリーステストに使用しているEmpower3は電子署名機能を有しており、電子署名後は電子生データを改変から保護できる。しかし、電子生データが処理され承認された後にQCラボのスーパーバイザーはEmpower3中のサンプルセット(シーケンス)を電子署名していない。
    QCラボのスーパーバイザーは以下の様に説明した。
    • LIMSにおいてユニークな識別番号が生成され、その識別番号がLIMSからEmpower3に設定される。
    • テスト結果はEmpower3外において電子記録によりスーパーバイザーが承認する。
    • その承認によりテスト結果電子記録はLIMSにおいてロックされる。
  • しかし、LIMS中のテスト結果電子記録をスーパーバイザーが電子署名してもEmpower3中のサンプルセットがロックされるわけではなく、オリジナル電子生データの改変が保護されるわけでもない。

★解説
LIMSに格納されるのはEmpower3の分析結果であり、分析機器のクロマトチャートやメタデータである監査証跡を含むオリジナルデータはLIMSには格納されないのが一般的である。ダイナミック・レコードの場合は電子記録が生データとなるので、オリジナル電子記録をダイナミック形式で維持しなければならない。電子記録生データは権限のない変更・削除から保護されねばならない。生データとなる電子記録を記録保存期間において変更・削除から保護していないと、GMP不適合となり指摘される。

本指摘をまとめると以下のようになる。

  • Empower3の分析結果をLIMSに吸い上げている
  •  LIMSに吸い上げた分析結果はスーパーバイザーがLIMS上で承認する
  • LIMSにおいて承認した以降は、LIMSに吸い上げた分析結果は改変・削除から保護される
  •  LIMSに吸い上げられているのは分析結果だけであり、ダイナミック形式のオリジナルデータは吸い上げられていない
  • 監査証跡は生データの一部となるメタデータであるがLIMSに吸い上げられていない
  • Empower3のオリジナルデータはダイナミック形式であり、このダイナミック形式のオリジナルデータを生データとして維持しなければならない
  • 監査証跡は生データの一部であるメタデータでありEmpower3において維持しなければならない
  • LIMSにおいて分析結果を承認したところで、Empower3の電子生データが改変・削除から保護されるわけではなくGMP不適合となる

分析機器とLIMSにおける記録のレビューと変更・削除のロック(保護)は以下のように考えるとよい。

  1. データレビューは分析機器において実施し分析の正当性を確認する
  2. 分析の正当性確認は、分析機器の監査証跡を含む電子記録により以下の様な観点で行う
    • 良いとこ取りの繰り返し測定や分析を行っていないか
    • 再解析は再解析開始条件の規定を満たしているか
    • 再解析の内容は妥当か
    • 拡大した波形に報告すべき事象が隠れていないか など
  3. データレビュー後は再解析・変更・削除を防止すべく分析機器上のデータにロックをかける
  4. データレビューを完了した、つまり正当性が保証された分析結果だけをLIMSに吸い上げる
  5. LIMSにおけるレビューは、試験指図に対する試験結果の正当性を確認するという観点で実施する(∵各分析の正当性は各分析機器におけるデータレビューで確認すみ)
  6. LIMSにおけるレビューが完了したら、試験指図に対する試験結果を承認しLIMSデータを改変・削除から保護する

 

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執筆者について

望月 清

経歴 合同会社エクスプロ・アソシエイツ代表。
1973年山武ハネウエル株式会社(現アズビル)入社。分散型制御システム(DCS)を米国ハネウエル社と分担開発。2002年よりPart 11およびコンピュータ化システムバリデーションのコンサルテーションを大手製薬会社にご提供。2009年より微生物迅速測定装置の啓蒙普及に従事。2014年5月より現職。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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