再生医療等製品の品質保証についての雑感【第31回】

今回も引き続き、工程設計について雑感を述べる。
QbDを意識した工程設計の考え方 (3) ~ 上流工程その2
はじめに
引き続き工程設計で、今回も上流工程に関する雑感を述べます。前回、増幅プロセスは従来の製剤における培養技術と似て非なる部分があることを示し、その課題についてお話ししました。これに対し、分化誘導プロセスは、従来の製剤開発では存在しなかった、新しい概念の培養技術であると認識します。
● 分化誘導プロセスの基本的な考え方
分化誘導プロセスは、体性幹細胞原料からの分化誘導と、万能細胞(ES/iPS細胞)からの分化誘導で区別されると考えますが、前者はもともと分化の方向性が制限されており、存在する体内の部位と近似の環境(培地成分など)を構築することで成熟化させる培養技術であると認識します。すなわち、体性幹細胞由来製品の製造工程では、増幅プロセスと分化誘導プロセスはいずれも、直線的なベクトルで細胞特性の維持あるいは特定の分化誘導を目指すことができると考えます。端的に言えば、予め定めたMA(原料細胞の物質特性)と、それに対応する培地の成分構成がそのまま主要なPPs(重要プロセスパラメータ)となり、各プロセスの開始から終了までを通して、1つのプロセスとみなすことができます。このとき、培地交換や継代操作は、作業者の入退室を伴う指図単位で工程と定義されたもので、必ずしも製品(細胞の成育)に対する連続的なプロセスアプローチではないですが、本来は細胞の生反応を考慮した一連であると認識します。体性幹細胞の分化誘導プロセスでは、培地成分の変更などにより、細胞の生反応で生じる変化に対し初期の環境を維持し続けるための環境を変化させますが、環境は概ね継続しているとみなすことができ、増幅プロセスとは大きく変わらないプロセス管理の工程要求であると考察します。
これに対し、万能細胞からの分化誘導プロセスは、明確に増幅プロセスから工程設計が切り替わると考えます。すべての細胞に分化可能な、大量の未分化細胞(中間原料)を特定の細胞種へと分化させるため、非常に煩雑なプロセス管理が要求されることが予想されます。万能細胞の分化誘導は、生物の発生学を理解し、三胚葉のいずれかへ向かう環境構築(構造・組成)から適切に組織幹細胞に、さらに目的細胞に向けた分化・成熟化までを誘導できる道筋(プロセス)を設計します。下図にイメージを示しますが、詳細は当研究室金美海先生の論文などをご覧いただければと思います。分化誘導プロセスは、目的の製品毎に多種多様な環境構築技術が要求されており、分化誘導に必要な期間も数日から数ヶ月と非常にユニークです。
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