GCP入門【第20回】

2021/08/06 臨床(GCP)

今回は、GCP 省令第47条から始まり第50条まで解説する。

 令和3年7月30日付で医薬品GCP省令のガイダンスが改正された。今回紹介するGCP省令第47条から第50条に関しては、この改正に伴う影響は無いようだ。さらに、医療機器GCP省令のガイダンスも同日付で改正された。また、再生医療等製品GCP省令は平成26年厚生労働省令第89号として発出されているが、これのガイダンスは今まで出されてはなく、今回初めて7月30日付で通知された。この他にも7月30日は、E2B(R3)実装ガイドに対応した副作用等報告など、多くの通知が出ている。

GCP省令第47条(症例報告書)
 症例報告書と「症例報告書の見本」の違いをGCP入門【第8回】で説明した。もう一度言うと、症例報告書のブランクフォームが「症例報告書の見本」であり、これにデータを書き込んだ(入力した)ものが「症例報告書」である。ということは治験依頼者が作成するのが「症例報告書の見本」であり、治験責任医師が作成するのが「症例報告書」ということになるが、これはJ-GCP(GCP省令)の定義であって、ICH-GCPでは特段の区別はない。
 治験責任医師が症例報告書を作成し、修正し、確認した場合は、これに記名押印又は署名しなければならないとされていたが、昨年(令和2年)12月25日のGCP省令改正で「氏名を記載しなければならない」と改められた。押印廃止を求めた令和2年7月の閣議決定に基づくものではあるが、下記に示すように現在の症例報告書はEDC(Electronic Data Capture)と呼ばれる電子化が利用されていることから、署名や押印ではなく「氏名を記載」と改めたのである。
 症例報告書中のデータのうち原資料(カルテや検査伝票や心電図など)に基づくものは、原資料と矛盾しないものであることは当然のこと。とは言っても原資料との何らかの矛盾があることも時にはある。例えば、症例報告書の疾患名とカルテに書かれた病名が異なっている、いわゆる保険病名が書かれていることも多々ある。このような場合には、治験責任医師はその理由を説明する記録を作成して、治験依頼者に提出する。この記録のことを「矛盾の記録」と呼んでいる。

 令和2年8月のGCPガイダンス改正でEDCに関する記載が多く盛り込まれた。EDCは現在では一般的になってきており、ここで少しだけ解説しておこう。症例報告書(CRF;Case Report Form)は治験責任医師や治験分担医師がデータを記載し、あるいは治験協力者がカルテなどの原資料からデータを転記して、治験依頼者がデータを取得するものであり、従来は紙の冊子形式(紙CRF)を用いていた。これが近年は、とは言っても既に10年以上は経過しているのだが、紙ではなく電子的にデータを取得する(e-CRF)システムが利用されている。これがEDCと言われるものである。令和2年8月の改正は、このEDCに関して追記されたものであり、治験責任医師がEDCに入力したデータを点検し内容を確認した上で保証することなど、治験の現場では従来から行っていることが明記されただけである。
 さらに「治験の中間報告書」に関する記載も、この令和2年8月のガイダンスで追記された。治験の中間報告書(Interim Clinical Trial/Study Report)はICH-GCPで、治験の進行中に行われる解析に基づく中間的な治験成績とその評価に関する報告書、と定義されている。また、中間報告書を作成する必要がある場合は、治験責任医師が症例報告書を点検確認し承認したことを保証するための手順書を作成することを治験依頼者に求めている。

GCP省令第48条(治験中の副作用等報告)
 治験の期間が1年を超える場合には1年に1回以上、治験審査委員会で治験を継続しても良いか否かの審査が義務付けられていることを、GCP入門【第16回】で述べた。その継続審査のための報告を、治験責任医師に対して求めているのがこの第48条第1項である。
 第2項は、治験責任医師が治験実施中に重篤な有害事象の発生を認めたときは、治験使用薬との因果関係の有無に係わらず、全ての重篤な有害事象を報告するという条文である。令和2年8月のGCP省令改正によって「治験薬」が「治験使用薬」に替わった。
 この「使用」が追記されただけのことではあるが、ところがこの部分は非常にインパクトの大きい改正なのだ。従来の「治験薬」というのは被験薬と対象薬を指していたが、「治験使用薬」となった途端に併用薬やレスキュー薬や前投与薬等々の多種多様な薬物が定義に加わった。もちろん治験実施計画書や治験計画届に記載されている薬物に限定されてはいるが、このような多種多様な薬物との因果関係を考慮する必要がある。さらに機械器具や加工細胞が使用されている場合も同様に遵守されることが望ましいことが、第2条のGCPガイダンス改正で記載された。ここでは「望ましい」と書いてあるのだが、本年(2021年)3月に公開された「令和2年度医薬品・医療機器等GCP/GPSP研修会」の資料では、「同様の取扱いとすること」と説明されており、「望ましい」どころか「義務付けている」ともいえる。
 なお、GCP/GPSP研修会の資料では、この場合の医療機器を「治験使用機器相当」、再生医療等製品を「治験使用製品相当」と呼んでおり、これらはいずれもGCP省令では定義されていない用語である。この部分に関しては令和4年9月1日に施行されることになっており、現在の経過措置期間でこれらの用語の周知を含め、諸々と整備されていくのであろう。

GCP省令第49条(治験の中止等)
 第49条は第1項から第3項まであり、いずれも主語は「治験責任医師は」となっている。簡単に説明しよう。
 第1項は、治験依頼者からの治験の中断中止通知があった場合は被験者に通知し適切な医療を提供しなければならないことが定められている。第2項は、治験責任医師が自ら中断中止した場合は実施医療機関の長に理由を文書で報告しなければならないとしている。第3項は、治験が終了した場合は実施医療機関の長に概要を文書で報告しなければならないとしている。
 第2項と第3項によって報告された実施医療機関の長は、報告内容を治験審査委員会と治験依頼者に通知することが、GCP省令第40条で定められている。

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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