GCP入門【第19回】

2021/07/02 臨床(GCP)

今回紹介するGCP省令第43条から第46条は、被験者に関係する重要な条文である。

GCP省令第43条(治験分担医師等)
 これは治験分担医師と治験協力者に関する条文である。つまり条文見出しにある「等」は治験協力者を意味する。とは言っても、「治験責任医師等」は治験責任医師と治験分担医師を合わせた用語であることが第2条ガイダンスで定義されているが、「治験分担医師等」が治験分担医師と治験協力者を意味していることが定義されているわけではない。治験分担医師とは、治験チームに参加する医師(又は歯科医師)をいい、治験責任医師により選定され、実施医療機関の長の了承を受ける必要がある。
 ICH-GCPではSubinvestigatorと書かれており、この日本語訳では「治験補助医師」と訳している。これについて中央薬事審議会CCP特別部会作業部会議事録(1996年10月から1997年1月)を見てみると、治験チーム内での責務の分担という視点から見直すと「治験分担医師」の方が良いだろう、という議論がなされていた。
 治験協力者は、治験責任医師等の指導の下に治験に係る業務に協力する薬剤師、看護師その他の医療関係者をいうと、GCP省令第2条で定義されている。一方同条ガイダンスでは、治験責任医師によって指導・監督され、治験責任医師等の業務に協力する者と書いてあり、省令とガイダンスでは微妙に表現が異なっている。省令では「医療関係者」と謳っているが、医療関係者の定義が明確ではなく、必ずしも医療資格の保有者を意味しているわけではない。現実には医療資格を持っていない治験協力者も多くいる。多少乱暴な見方かもしれないが、実施医療機関の職員である治験協力者、いわゆる院内CRC(Clinical Research Coordinator、治験コーディネーター)と呼ばれている方々は薬剤師と看護師と臨床検査技師が多いように思う。これに対してSMO(Site Management Organization、治験施設支援機関)から派遣されているCRCは医療資格を持っていない方が比較的多いように思う。

GCP省令第44条(被験者となるべき者の選定)
 治験責任医師等は被験者となるべき者を選定しなければならないことが規定されている。逆に言うと、被験者を選定するのは治験責任医師か治験分担医師のどちらかであり、治験協力者が被験者を選定することはできない。被験者を選定する際には倫理的及び科学的観点を考慮することは言うまでもない。その際に、被験者の同意能力に留意しなければならず、同意能力を欠く者は原則として試験に組み入れてはいけない。やむを得ない場合は第50条(文書による説明と同意の取得)で定めた代諾者の文書同意が必要となる。
 治験に参加しないことにより不当な不利益を受けるおそれがある者、いわゆる社会的弱者を被験者とする場合には、特に慎重な配慮が必要である。社会的弱者とは、参加に伴う利益又は参加拒否による上位者の報復を予想することにより、治験への自発的参加の意思が不当に影響を受ける可能性のある個人をいう。例えば、病院の職員や製薬企業の社員のように階層を成している者の他、ホームレスや貧困者などがあげられる。これらの者を被験者とする場合には、特に慎重な配慮を払うこととされており、強制的ではなく自発的な同意であることを明確に記録しておく必要があろう。しかし、院内職員を組み入れていた治験では、実施医療機関に対するPMDAの実地調査において、通常の治験では院内職員は参加困難であることに留意するように指摘されたこともあったようだ。院内職員とは言っても、治験責任医師や治験分担医師が自らを被験者として選定したこともあったようだが、これは第三者性、すなわちデータの信頼性の観点からもあり得ない。

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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