初めてのGDP(医薬品適正流通基準)【第6回】

2021/06/18 製造(GMDP)

輸送過程における医薬品の完全性保持の要件として温度管理を考察をする。

輸送過程の品質確保、特に温度管理について

1.原薬の流通管理について 

 今回は輸送過程の品質確保という観点からGDPガイドラインを説明しますが、それに先立ち、ひとつご紹介しておきたいことがあります。
 これまでご説明してきたようにGDPガイドラインの対象は生産工場から市場出荷された医薬品です。それに対して、原料、特に有効成分である原薬が生産工場に納入されるまでのいわゆる広い意味でのGDPの運用については、厚労省はその過程はGMP管理をしてくださいというように指導されています(連載第3回)。しかしながら、GMP省令のどこを見ても流通過程の関する規定はなく、せいぜいPIC/S-GMPガイドラインのアネックス15に輸送の検証という項目がある程度です。
 このため、原薬の流通管理をどのように考えればよいのでしょうか?というご質問をしばしばいただきました。筆者はこれまでそういうご質問に対しては、PIC/Sの原薬GDPのガイドライン*を参照され、いわゆるGMDPの考え方で対応するといかがでしょうか、とお答えしてきました。
 この点に関してなのですが、、本年4月28日付けで改正GMP省令が公布され、同時にその施行通知も発出されています。この施行通知(第11条の4関係)を見ますと、原薬の供給者管理の項目に、先ほど述べたPIC/Sの原薬GDPのガイドライン等が参考になるとの記載があり、筆者と同様の見解が示されています。
 以上、直近のトピックスとして情報共有しておきたいと思います。 
*Guidelines on the principles of good distribution practice of active substances for medicinal products for human use

2.輸送過程の温度管理の考え方

 さて、今回のテーマである輸送過程の温度管理について考えたいと思います。

1)温度管理の基本
 輸送過程における最大の要件は輸送の過程で医薬品の完全性を損なわないことです(第9.1.2, 9.2.6条)。医薬品の完全性(Integrity)とは、市場出荷された医薬品が出荷時の状態を維持し、品質の劣化、改ざん、破損がないこと、を意味します。この観点から、特に輸送時の輸送車両の温度管理に関して、非常に業界の関心を集めています。
 倉庫や輸送車両の荷台等の保管庫の温度管理の基本を前回(連載第5回)でご説明しました。次の通りですので思い出してください。
 第1段階:まず保管庫使用前に、温度マッピングの実施により庫内の温度分布が要求仕様に対して適格であることを確認する。
 第2段階:次に、温度マッピングの結果から庫内温度分布の代表点(Cold spot、Hot spot、等と呼ばれる最低/最高温度ポイント)を抽出して、保管庫使用時毎にそれらの選択された代表点の温度を記録する。これが温度モニタリングです。

2)輸送車両の温度マッピング
 輸送車両の荷台の温度マッピングについてご説明しておきたいと思います。次項でもとりあげますが、GDPガイドラインの第9.4.4条には温度制御装置(エアコン)付きの輸送車両(保冷車)の荷物室に対して温度マッピングと温度モニタリングの実施を求める規定があります。他方、荷台にエアコンのない車両(常温車)については、温度マッピングは求められておらず、温度モニタリングのみが必要とされており、最初にこの点を明確にしておきます。
 まず保冷車に対して温度マッピングを行うタイミングですが、輸送車両を初めて使用する前に実施することが必要であり、その後は再確認として例えば3~5年ごとの実施が必要ではないかと思われます。また車両のエアコンシステムを変更した場合も温度マッピングが必要です。この温度マッピングは荷物がない無負荷の状態で行うことが基本ですが、望ましくは荷物を積載した状態でも実施することが必要です。もっとも、実態としては無負荷の状態でのみ温度マッピングを実施するケースが多いようです。
 次に、輸送車両の温度マッピングという時に問題になるのが、輸送業者は多くの輸送車両を所有しているわけですので、そういう場合に全ての輸送車両において温度マッピングを実施する必要があるのでしょうか、ということです。これについては、荷台の仕様と搭載されたエアコンが同じ形式であれば、代表する一台の車両で温度マッピングを実施すれば、全ての車両で実施する必要はないと考えられます。
 また、輸送車両の走行中と停車中でエアコンの稼働状態が異なるということが言われていますが、走行時と停車時で温度マッピングを実施した事例では試験結果に大きな相違がなかったということから、温度マッピングについては通常の走行状態で実施すれば良いというご意見も聞いています。なお実施時期ですけれども、夏と冬の2回で実施することがよいでしょう。   

 それから、温度マッピングを行う際の温度記録計の設置場所については、荷台の8方の隅と荷台中央の計9箇所及びエアコンの吹き出し口並びに吸い込み口をマッピングのポイントとすればよいと考えられます。

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執筆者について

小山 靖人

経歴 小山ファーマコンサルティング代表
NPO-QAセンター顧問
1979年藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社)入社、責任者として無菌製剤の製剤化研究、並びにGMP及び治験薬GMP全般に関する品質保証業務に従事。2003年日本イーライリリー株式会社に入社、開発QAマネージャーを担当。2007年塩野義製薬株式会社に入社し、金ケ崎工場の品質部門長を経て、本社部門の品質保証部にてGQPに関する製造所管理業務に従事。2019年、小山ファーマコンサルティングを起業。
この間、厚生労働科学研究「医薬品・医薬部外品製剤GMP指針」を座長として取りまとめ、厚生労働省より発出 (2003~2006年、主任研究官 檜山行雄先生)。厚生労働省の「PIC/Sガイドライン比較分析ワーキングチーム」に参加(2010~2011年)、また厚生労働行政推進調査事業「GDP国際整合化研究班」に参画し(2016年~現在)、GDPガイドライン発出に関与。日本薬剤学会「製剤の達人」受賞(2011年)、薬剤師、日本PDA製薬学会代議員。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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