初めてのGDP(医薬品適正流通基準)【第5回】

2021/04/09 製造(GMDP)

【著者セミナー】
医薬品GDP入門~GDPガイドラインのポイントと具体的な実践方法~
※Web受講のみ
●日時:2021年5月14日(金) 10:30-16:30



1.温度管理の重要性 

 医薬品の流通過程にあって、言うまでもなく、温度管理は品質保証の重要な要件となります。医薬品は品目ごとに厚労省より製造販売承認を得なければなりませんが、承認書に保管温度が規定されており、それに基づいて、通例、室温(1~30℃)又は冷所(2~8℃)、あるいは特定の温度域で保管されねばなりません。従って、GDPが対象とする流通過程では、保管と輸送における温度管理が求められることになり、今回はそのうち、倉庫等の保管施設及び設備に関する温度管理についてご説明したいと思います。これらの事項は、GDPガイドラインの第3章「施設及び機器」に規定されています。
 医薬品は所定の管理温度を外れるとその品質に大きな影響が生じる可能性があります。まず、主薬そのものの分解、含量の低下という問題があり、特に最近開発が進むバイオ系の医薬品の場合ではそれが顕著な場合があります。昨今、新型コロナウイルス感染症に対して非常に関心がもたれているワクチンですが、そのいくつかのワクチンは非常に熱安定性が悪く、-75℃や-20℃という厳格な温度管理が求められていることはマスコミ報道の通りです。また、錠剤であれば割れや欠けや変色、軟膏・クリーム剤の相分離、あるいは注射剤ならば濁りや沈殿等、温度の異常により、物理化学的な影響が生じる場合もあります。

2.GDPガイドラインにおける温度管理の要件

 GDPガイドラインでは、温度管理について次のように規定されています。
 「保管場所の使用前に、代表的な条件下で温度マッピングを実施すること。温度モニタリング機器(例えばデータロガー)は、温度マッピングの結果に従って適切な場所に設置すること。」ということで、温度マッピング(Temperature mapping)と温度モニタリング(Temperature monitoring)が求められています。ただし、「数平方メートル程度の小規模な施設の室温については、潜在的リスク(例えば、ヒーターやエアコン)の評価を実施し、その結果に応じて温度センサーを設置すること。」とあって、小規模な施設・設備では必ずしも温度マッピングは求められていません(以上、第3.3.2条)。いずれにせよ、保管施設の温度管理は基本的には、1)温度マッピングと2)温度モニタリングという2段階で実施されることになります。

1)温度マッピング
 保管施設の新設時など、施設の使用前に、まず温度マッピングを実施します。温度マッピングとは施設内の温度分布が要求仕様(管理温度)に対して適格であることを確認する作業です(通常、バリデーションとして実施されます)。管理温度は、室温(1~30℃)保管品を対象とする施設であれば、1~30℃としてもよいのですが、例えば15~25℃のように厳しく設定することもあります。
 温度マッピングでは、保管施設の空間の3次元的な温度分布を複数の温度記録計を配置して一定期間の測定を行うことになります。温度記録計の配置に関して、WHO(世界保健機関)のガイドライン*が公的なものとしては唯一のものですので、よく参照されますが、例えば次のような規定があります。
・天井の高さが3.6m以下の場合は、温度記録計を中高レベルで上下に配置。3.6m以上の場合は、下部、中央(複数)、上部に並べて垂直に配置する。
・温度記録計は、水平面では施設の幅と長さに沿って格子状に配置する。通常、5~10m間隔で、長さ100mを超える大規模な施設では20~30mの間隔で配置。
・空調制御用の温度センサーの近傍にも温度記録計を設置する。
というような具合です。WHOのガイドラインは法的な要件ではなく、あくまでも参考情報なのですが、非常に参考になります。ただし、少々「厳しすぎる」という意見もあるようです。
*    Technical supplement to WHO Technical Report Series, No. 961, 2011
 温度マッピングはまず無負荷(保管荷物なし)で実施します。バリデーション用語でいうとOQ、すなわち運転時適格性評価ということで、保管施設がハード的に要求仕様、つまり温度分布が管理温度内であり適切であることを確認します。評価の期間は一般には空調や温度調節等のシステム管理プログラムが一巡する期間とされており、最短で一昼夜ということになるかと思います。
 次の段階は実際に荷物を保管した状態での温度マッピングで、PQ(性能適格性評価)ということになり、荷物保管という状況でも温度分布が管理温度内であることを確認します。実際の施設稼働下ですから、荷物の搬出入や作業者の出入りも含めた形での評価になります。通常の保管施設の実運用は1週間単位であることが多いので、評価の期間としては1週間が適切と考えられます。保管施設は外気の影響を受けるため、このPQは夏季と冬季に実施することが推奨されています。また、施設の設備機能は空調能力の低下など永年変化が生じる可能性があり、PQは定期的に実施することが求められます。筆者の見聞しているところでは、3~5年間ごとに実施している企業が多いようです。なお、保管施設のレイアウト変更や空調システムの変更など、温度分布に影響すると考えられる変更を実施する場合には、そのたびごとにPQが必要です。
 

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執筆者について

小山 靖人

経歴 小山ファーマコンサルティング代表
NPO-QAセンター顧問
1979年藤沢薬品工業株式会社(現アステラス製薬株式会社)入社、責任者として無菌製剤の製剤化研究、並びにGMP及び治験薬GMP全般に関する品質保証業務に従事。2003年日本イーライリリー株式会社に入社、開発QAマネージャーを担当。2007年塩野義製薬株式会社に入社し、金ケ崎工場の品質部門長を経て、本社部門の品質保証部にてGQPに関する製造所管理業務に従事。2019年、小山ファーマコンサルティングを起業。
この間、厚生労働科学研究「医薬品・医薬部外品製剤GMP指針」を座長として取りまとめ、厚生労働省より発出 (2003~2006年、主任研究官 檜山行雄先生)。厚生労働省の「PIC/Sガイドライン比較分析ワーキングチーム」に参加(2010~2011年)、また厚生労働行政推進調査事業「GDP国際整合化研究班」に参画し(2016年~現在)、GDPガイドライン発出に関与。日本薬剤学会「製剤の達人」受賞(2011年)、薬剤師、日本PDA製薬学会代議員。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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