GCP入門【第12回】

2020/12/04 臨床(GCP)

GCP省令第14条(被験者に対する補償措置)
 GCP省令第1条のガイダンスに治験の原則として14項目が記載されており、これはICH-GCPに記載されている13項目に1つ追加されたものであることをGCP入門【第8回】で紹介した。その1つというのが、被験者に健康被害が生じた場合の補償に関する記載であり、これに関する条項がGCP省令第14条である。
 まず、補償と賠償の違いについて触れておこう。補償は、適法行為に係る損失補填であり、社会的救済の意味合いがある。例えば、今般のコロナ禍で、休業している飲食店などには休業支援金や協力金等の名目で一定額の金額が支払われている。これが補償。補償額は通常は同じ被害であれば、一律・定額が原則だ。一方、賠償は違法性を前提とする責任であり、例えば、スピード違反などで交通事故を起こして歩行者にケガを負わせた場合は、違法行為に基づくものであり、賠償額は同じ被害であっても歩行者の年齢や年収などによって個人差がある。
 治験で考えるならば、例えば治験薬に異物が混入したり、モニターが間違った情報を説明したり情報の遅延があった場合は治験依頼者側の、そして過剰投与や手術ミスなどの医療過誤があった場合は医療機関側の、それぞれの違法行為に基づき健康被害を生じた被験者に対して、補償ではなく賠償責任の可能性がある。補償を受けることができるのは、健康被害の原因が治験(治験使用薬または治験実施計画書に定めた方法・手順等)にあると考えられる場合に限られる。補償の内容は、医療費、医療手当及び補償金(障害補償金、障害児養育補償金、遺族補償金)の3つといわれている。
 第14条では、被験者の健康被害に「受託者の業務により生じたものを含む」との記載がある。受託者、つまり開発業務受託機関(CRO)に業務を委託した場合であっても、その委託業務により生じた健康被害は治験依頼者に補償義務が生じるのであって、CROには補償の義務はない。第12条を見てみると、CROは健康被害の補償手順を定めて当該手順に従って業務を実施する旨が記載されている。例えば、CROのモニターが被験者の健康被害情報を入手したら、CRO社内に報告し治験依頼者へ連絡するなどの手順を定めて、その手順に従って行動するということである。これに対して、治験依頼者も同様の手順を定めて実施することに加え、保険契約の締結などの措置を講じておかなければならない。
 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

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