GCP入門【第11回】

2020/11/06 臨床(GCP)

GCP省令第10条(実施医療機関の長への文書の事前提出)
 わかりにくい条文見出しであるが、簡単にいうと、医療機関に治験を依頼する際に依頼書と一緒に提出する文書について規定した条項である。実施医療機関の長はこの文書を受け取ってどうするかというと、これがそのまま治験審査委員会(IRB)に提出される。つまり、事前提出資料はIRB審議資料ということになる。
 事前提出資料として7種類の文書がこの条文に記載されているが、実際は医療機関によって異なる。また、これらの文書は必ずしも個別の作成を求めるものではなく、複数の文書を1つにまとめることが可能とされている。例えば、「治験責任医師等となるべき者の氏名を記載した文書」については「治験実施計画書」に書いてあればよく、「治験の費用の負担について説明した文書」や「被験者の健康被害の補償について説明した文書」については「説明文書」に書き込まれていれば、別途個別に作成する必要は必ずしもない。この事前提出資料がIRBの審議資料になるといったが、IRBの委員の数以上の部数を提出することになる。
 これがGCP省令第10条第1項の説明であるが、これに続いて第2項から第5項まである。GCP入門【第4回】で、平成13年のGCP改正は「IT書面一括法」に絡んでものであり、従来は契約や通知などのように書面でやり取りしていたものを、電磁的に行っても良くなったということを紹介した。この第10条以外にも、第24条や第40条の治験の中断中止の通知、第12条や第13条の契約手続きなども電磁的方法で良くなったことから、これらの条項に同様の条文が記載されている。

負担軽減費
 上記のように省令では「治験の費用の負担について説明した文書」と書いてあるが、ガイダンスでは「被験者への支払(支払がある場合)に関する資料」と追記されている。この「被験者への支払い」について少し解説しよう。治験に参加いただいた患者さん(被験者)にいくらかの金額を支払うのが一般的であり、これを治験協力費とか負担軽減費と呼んでいる。以下に、平成11年(1999年)6月の「治験を円滑に推進するための検討会」報告書から抜粋する。
 治験に参加することは、被験者にとって新しい治療を先んじて受ける機会を得る可能性があるという利点がある一方、治験薬の有効性及び安全性の観察のため、より多くの来院、検査等が必要となることから、時間的な拘束、交通費の負担増をはじめとして、治験参加に伴い、物心両面における種々の負担が発生することも否定し得ない。一部の実施医療機関においては、被験者の種々の負担を勘案し、当該治験に参加することにより生じた負担を軽減するため、一定の金銭が支給されている。また、同様の目的から、金銭以外のものとしてタクシーチケット、食券等が支給されている例もある。例えば、一部の医療機関(約200施設)の現状をみると、外来における治験について、一来院当たり約3,000円から約10,000円(平均約7,000円)が支給されているとの報告がある。
 今から20年近く前の報告書を紹介したが、ここに書いてある金銭以外のタクシーチケットや食券というのは最近では耳にしないが、「約7,000円」は20年後の今は7,000円から10,000円が多いようだ。この金額については、IRBの審議事項になっており、その目的は、被験者に治験への参加を誘因する要素が無いことをIRBで確認することである。なお、あくまでも外来時の「一来院当たり」であって、入院中の患者さんには支給されず、入院時と退院時はそれぞれ一来院として算出される。
 
 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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