GCP入門【第10回】

2020/10/02 臨床(GCP)

GCP省令第7条(治験実施計画書)
 治験依頼者は治験実施計画書を作成しなければならないということが、この第7条で規定されている。旧GCPの時代は治験総括医師が治験実施計画書や総括報告書を作成していたことをGCP入門【第8回】で紹介したが、今は、医師ではなく治験依頼者(製薬企業)がこれらを作成しなければならない。

 第1項は、治験実施計画書に記載しなければならない項目が定められている。治験の目的や方法はもちろんのこと、実施医療機関や治験責任医師や治験依頼者等のいわゆる治験実施体制を記載しなければならない。さらに詳細な記載項目については、この第7条だけではなく答申GCPを参照することとなっている。
 治験実施体制は、治験期間が長くなれば変更することが当然多くなる。例えば治験責任医師が交代したり、あるいは治験依頼者のモニターが替わったりすることも頻繁にある。そのたびに治験実施計画書を改訂しなければならない。特に多施設共同治験(複数の実施医療機関で同じ治験を実施する治験)ではかなりの頻度で改訂作業が発生し、その都度全ての実施医療機関に新しい治験実施計画書を渡さなければならず、改訂内容によっては治験審査委員会の審議を受けなければならない。
 この煩雑さを避けて治験を効率的に進めることを目的として、第7条ガイダンスでは「分冊」という言葉が出てくる。これは実施医療機関の数だけ分冊を作り、この分冊には当該実施医療機関に特有の情報のみを記載して、当該医療機関だけに提出するというものである。もちろん全ての実施医療機関に共通する部分は全ての実施医療機関に交付する。例えば、実施医療機関が50施設あれば、50の分冊を作成し、そのうち実施医療機関には治験実施計画書の本体部分と、当該医療機関に該当する1つの分冊のみを提出することによって、他の49の医療機関の実施体制に変更が有ろうが無かろうが関係ない、というもの。ところが現実は「分冊」ではなく50施設分を全て網羅した「別紙」を作成し、治験実施計画書に添付する形とし、治験実施計画の本体は改訂せずに別紙だけを改訂することが行われている。しかし、厳密にいうとこれはよろしくない。別紙だろうが、治験実施計画書の一部であることには変わりないので、自分とは関係のない施設の変更であっても治験審査委員会の審議対象としなければならないこともある。

 治験実施計画書を作成した場合、治験実施計画書の内容及びこれに従って治験を行うことについて、治験責任医師となるべき者の同意を得なければならない。治験実施計画書を改訂した場合もやはり同意が必要だ。ということが第4項と第5項に書いてあるのだが、ガイダンスではさらに症例報告書の見本についても同意が必要となっている。厳密にいうと、省令では「同意を得なければならない」、ガイダンスでは「合意すること」と、微妙に違う言葉を使っている。
 

 第7条第2項は第50条(文書による説明と同意)第4項に関する例外規定である。第50条第1項では、治験に参加する被験者本人に対してあらかじめ文書による説明と、文書による同意を必須としている。しかし小児や重度の認知症患者の場合は同意を得ることが困難なので、代諾者と呼ばれる人の同意があれば本人の同意を不要としているのが第50条第2項だ。詳細は後日述べよう。そして第50条第4項では、薬物動態試験や健康成人を対象とする非治療的治験の場合は、たとえ代諾者の同意があっても治験に組み入れることができないという第2項の例外が規定されている。しかしこの例外規定にもさらに例外があって、治験実施計画書にその旨を記載しておけば組み入れることができる。

 治験に参加していただくには、被験者に対してあらかじめ文書で説明し文書で同意を得なければならず、そして同意能力を欠く被験者の場合は代諾者への説明と同意が必要だということを上で書いた。では、交通事故や脳血管障害で意識が消失している患者さんが緊急搬送されて来て、家族の付き添いがないときに、治験薬を使用しなければ救命できない場合はどうしたらよいのだろうか。患者さんご本人は意識がないし、代諾者もいない状況なので、「あらかじめ、文書説明、文書同意」という3つの条件を満たせない。その場合の規定が第55条(緊急状況下における救命的)である。このような治験の場合は、特別な倫理的配慮が必要になり、その要件を治験実施計画書に明記しておかなければならない。これが第7条第3項である。もちろん、治験審査委員会にその経過や結果を報告したり、効果安全性評価委員会を設置したりということは必要になってくる。
 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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