GCP入門【第9回】

2020/09/04 臨床(GCP)

GCP省令第二章(治験の準備に関する基準)
 第4条から第15条(医師主導治験は第15条の2から第15条の9)までが第二章。第二章は治験の準備に関する基準、すなわち法第80の2第1項で言っている治験の依頼に関する基準である。プレイヤーで言うと治験依頼者や自らさんが守らなければならない基準だということを、前々回のGCP入門【第7回】で書いた。

GCP省令第4条(業務手順書等)
 第4条の見出しは「業務手順書等」となっている。第1項は業務手順書に関する記載であるが、第2項は専門家の確保に関する記載なので見出しに「等」が付いている。
 第1項では、治験依頼者は「治験の依頼及び管理に係る業務に関する手順書を作成しなければならない」と記載されている。治験の依頼はGCP省令第二章で、治験の管理は第三章だということを既に述べた。つまり治験依頼者はGCP省令の第二章と第三章に関する業務の手順書を作成しなければならないということである。具体的に例示されており、治験実施計画書の作成、実施医療機関及び治験責任医師の選定、治験使用薬の管理、治験使用薬等の副作用情報等の収集、記録の保存に関する手順書を作成することになっている。なお、昨年の医薬品医療機器等法改正に伴って本年8月31日付でGCP省令が改正された。下線部分の「治験使用薬」と「治験使用薬等」は、この改正で生まれた新しい用語である。

 第4条第1項は業務手順書に関する規定であるが、平成23年(2011年)10月24日の運用通知(現在のガイダンス)改正によって、ちょっと趣の違う文言が追記された。医療機関や臨床検査機関などの検体検査に関する精度管理等を保証する記録等を確認することを、治験依頼者に求めた。これは、治験のGlobal化に伴い、検査機関のいわゆるLab Certificateを求められる場合が増えたために記載したのである。しかし、ICH-GCP ではLab Certificateを入手して保存することを求めているが、J-GCP(GCP省令)では「記録等を確認する」ことに留め、Lab Certificateの保存を求めてはいない。「精度管理等を保証する記録」とは、例えば検査機器のバリデーションや保守点検記録、検査時のキャリブレーション方法の確認等を指すが、一般的にはISO15189やCAPや日臨技サーベイなどの証明書を医療機関や検査機関が持っていることを治験依頼者のモニターは確認している。

 2016年11月、ICH E6(R1)に品質マネジメント(Quality Management)や、リスクに基づくモニタリングに関する考えが盛り込まれICH E6(R2)に改訂された。そしてこれに伴って、2019年(令和元年)7月にGCPガイダンスが改正され、さらに同日付で治験における品質マネジメントと、リスクに基づくモニタリングに関する2つの通知が発出された。これらのことが、GCP省令第4章第1項のガイダンスに追記されたのである。このあたりのことはGCP入門【第6回】で既に解説しているので、重複した説明は割愛する。
 しかし、まだ説明していないことがもう一つある。「被験者保護や治験結果の信頼性に重大な影響を与える又は与えるおそれがある不遵守が発覚した場合には、治験依頼者は、根本原因を分析し、適切な是正措置及び予防措置を講じること」ということも昨年(令和元年)のGCPガイダンス改正で盛り込まれた。すなわち、Root Cause AnalysisとCAPA (Corrective Action, Preventive Action)という概念がGCPに盛り込まれたのである。モノ作りの世界では「改善」という言葉がよく使われ、1970年代の日本車が米国を席巻するに伴って「KAIZEN」が米国でも使われるようになったことは周知のとおりである。このKAIZENを米国流にカスタマイズしたものがCAPAだとも言われている。やはりモノ作りのルールであるGMP省令には「改善」という言葉が多く使われており、CAPAの考えも広く行き渡っているようだが、GCP省令では使われていなかった(わずかにガイダンスに2-3か所の記載があるのみ)。

 第2項では、治験の依頼と管理に関して必要な専門的知識を有する者を確保しなければならないことを治験依頼者に求めている。これには、治験実施計画書や治験薬概要書を作成したり、データの取扱いや統計解析を実施したり、あるいは総括報告書の作成等の専門家のことを指している。この専門家は製薬企業の社内、すなわち社員だけではなく、社外の生物統計学者や臨床薬理学者や医師などを活用することが可能である。
 GLP省令でもGMP省令でも、職員に対する教育訓練を求める条文があるが、GCP省令には治験依頼者、すなわち製薬企業の社員に教育訓練を明確に義務付けている条文はない。しかし、この第4条第2項で、治験の依頼と管理に係る業務について専門的知識を有する者を確保しなければならないと記載しており、これが製薬企業の社員に対して専門的知識の教育訓練を義務付けていると読めなくもないであろう。
 

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執筆者について

大場 誠一

経歴

株式会社エスアールディ 信頼性保証室 参与
旧GCP施行当時から国内の製薬企業で試験監査室長としてGCPとGLPの監査を担当。その後の欧州系製薬企業では信頼性保証室長としてGCPとGLPの監査の他、GMPとGPMSPの監査に携わる。そして後の米系CRO(開発業務受託機関)ではQA DirectorとしてGCP監査の責任者。現在は国内CROでGCPと臨床研究の監査、さらにGCP教育やSOPライティングの受託業務を専門としている。またGCPに関連した執筆や多くのセミナーでの講演活動、さらにDVDやe-ラーニングを用いたGCP教育に携わるなど、30年以上にわたってGCPに深く関わり続けている。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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