再生医療等製品の品質保証についての雑感【第12回】

2020/04/03 再生医療

水谷 学

はじめに
 製品の物流は、一般的には出荷判定後に不特定で実施されるものであり、品質管理の範疇としては微妙な事案かと思います。一方で、再生医療等製品の品質は、保管可能期間においても、環境からの影響により大きく変動する可能性が想定されますので、患者に投与されるまでの輸送および保存に関わる手順を含めて、適切に(詳細に)管理できることが求められます。本稿では、凍結細胞製品の物流(コールドチェーン)における製品品質の確保について雑感を述べさせていただきます。


● 細胞凍結と凍結製品の保管
 細胞を凍結することは、生反応による時間変化の影響が大きい細胞製品において、現状で唯一の効率が良い「時間停止」の方法となります。複数の同一製品によるロットを形成する再生医療等製品においは、細胞(製品)の凍結と凍結した製品の保存(保管工程)は不可避の管理項目と考えます。では、凍結工程と保管工程ではどのように管理項目が異なるのでしょうか。
 細胞は、凍結工程・保管工程において、下表のように、解凍後の生存維持および活性維持の2つの管理が必要と考えます。概して、前者は主に凍結工程において冷却速度や保護剤の選択により制御されると考えます。また、後者は主に保管工程において温度で制御されていると考えます。凍結工程では、最適冷却速度による緩慢凍結法あるいは超急速冷却によるガラス化凍結法により、細胞内氷晶の径や量を制御することにより、細胞膜の破壊などを最小化することで解凍後の生存細胞率を維持します。このとき、生細胞率維持の観点では、一般的には氷晶が安定化する-40℃までの冷却速度を管理が要求されており、凍結後も-80℃程度の超低温フリーザーにて安定して維持可能です。
 一方、保管工程では、温度により細胞の代謝や化学反応を制御することにより、解凍後に顕現するアポトーシス誘導などを最小化することで細胞の活性を維持します。このとき、水やたんぱく質を含む液体による化学反応は-80℃では完全には停止していないことがわかっています。完全に時間停止させるためには-196℃の液体窒素タンクに保管、少なくとも水のガラス転移温度である-130℃付近を下回る温度を維持する必要があると考えます。(DMSO添加によるガラス転移点への影響は議論できていません。)

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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