再生医療等製品の品質保証についての雑感【第11回】

2020/03/06 再生医療

水谷 学

はじめに
 本稿では、前回の上流工程に引き続き、下流工程における製品品質の確保について雑感を述べさせていただきます。上流工程が再生医療等製品の原料細胞から目的細胞までの品質確保(同質の細胞群を準備すること)に関する工程群なのに対し、下流工程は分離・精製と製品形態および保管手順を決定する工程群ですが、同時に、ロットを形成する製品のロットサイズを決定し、投与(患者)までつなぐため、上流工程で達成した品質を低下させずに維持する重要な工程群と認識しています。

● 細胞を製品とする下流工程とロットサイズの考え方
 一般的な医薬品(原薬等)における下流工程は、上流工程で生成させた中間製品が、目的とする製品の品質規格を満たすために、主に分離および精製を行うことを示します。精製された中間製品は、打錠や分注などの工程を経て、同一のロットとして数量を形成する最終製品となります。再生医療等製品などの生きた細胞を製品とする細胞製造においても、iPS細胞などマスターセルバンクを有する原料を用いた製品では、同様に、できる限り大きいロットサイズを形成することを想定して工程設計を進めたいと考えますが、細胞の生物学的な活性維持を前提とした製造性(細胞製造性)のため、非常に大きな制限が生じることがわかっています。
 生きた細胞は、以前にも述べましたが、適切な手順で凍結するまでは変化を止めることができず、そのまま放置すれば時間とともに活性を失い、やがて死んでしまいます。すなわち、上流工程を終えた細胞は、分離、精製および分注工程を行う時間に依存して活性が低下するため、製品の品質規格において不適な細胞の分離や必要な細胞の単離に対して十分な時間を設けることが難しいと予想します。神経系の細胞など、少ない細胞数で治療が可能な再生医療等製品では、セルソーターなどで分離を実施することが可能と考えますが、心臓や肝臓など大きな臓器を治療するための細胞数に対しては、高いスループットを有する方法でなければ採用が難しいと考えます。
 加えて、細胞懸濁液の分注工程では、細胞をDMSO等が含まれる凍結保護剤に懸濁して実施するため、全ての細胞を凍結容器(バイアル等)に充てんし、凍結工程を開始するまでに許容される作業可能時間は長くはありません。我々の研究室より発表された論文(Kagihiro M, et al. Biochem Eng J. 2018; 131: 31-38)では、下図のように、凍結保護剤との懸濁により、時間とともに活性を有する(増殖可能な)細胞の数が低下することがわかっています。このように、ロットを構成する再生医療等製品の製造では、同一の製品として製造できる数量(ロットサイズ)が下流工程の手順に大きく依存します。
 
図. 凍結保護剤との懸濁時間に対する細胞活性の低下(A: iPS細胞,B: 間葉系幹細胞)

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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