再生医療等製品の品質保証についての雑感【第9回】

2020/01/10 再生医療

水谷 学

はじめに
 今回も、前回に引き続き、安定して製品を製造するため、工程を適切に実施する上で必要な補助(サブ)工程についての雑感をお話しします。前回は細胞加工工程の導入形態について考えることでしたが、今回は、各工程操作の終了後における無菌操作環境の維持要件について議論します。
 本議論は、無菌操作等区域および清浄度管理区域におけるクリーニング(洗浄)バリデーションの考え方など、無菌操作環境の構築あるいは維持において重要な課題を含んでおり、再生医療等製品の製造における作業所の共用や自動細胞加工装置の運用(チェンジオーバーに向けた要件)の理論構築に対して強く影響を及ぼすと想定されます。今後繰り返しお話しをして深めていきたいと考えます。


● 製造工程と無菌操作環境構築・維持の相関について
 原則として、無菌操作環境の環境モニタリングは、微生物清浄度と微粒子清浄度で評価されます。このとき、微生物清浄度の評価結果が得られるには、培養法で実施した場合、最低でも1週間程度の遅れが生じます。したがって、無菌操作環境の構築では、適切な清浄化(清掃による微粒子の除去)と除染・消毒を実施した後に、微生物清浄度の評価を待つ必要があります。医薬品の製造などにおける一般的な製造工程では、上記の期間を考慮した無菌操作環境の構築(初期化を伴うラインクリアランス)を行い、一連の工程操作を実施した時点で終了します。そして、次の工程では新たに同様のラインクリアランスを実施します(図1上)。
 これに対し、再生医療等製品製造における細胞加工に関わる工程では、無菌操作等区域(安全キャビネット内など)を中心とした無菌操作環境は、一度構築した後に、複数の工程を通じて一定期間維持管理が継続されます。例えば、培地交換等の工程は1~数日の間隔で実施されるため、次工程の無菌操作環境の維持は、モニタリングの結果を待たずに評価が推定され、工程の切り替え(チェンジオーバー)が許容され、同一の区域で複数の工程が進められます(図1下)。このとき、無菌操作環境は継続して維持管理されることが前提となるので、チェンジオーバーに向けた前工程操作終了時の条件として、「除染・消毒」が実施される手順が示されていれば十分かと問われれば、必ずしもそうではないと考えます。
 
図1.製造工程における無菌操作環境の構築と維持の違い

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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