再生医療等製品の品質保証についての雑感【第4回】

2019/08/09 再生医療

水谷 学

はじめに
 再生医療等製品の製造では、培地や添加因子などの「細胞以外の原料」、最終製品に含まれない重要試薬である「アンシラリマテリアル(製造補助剤)」、および製品に直接接触する培養容器などの「工程資材」は、いずれも細胞の育成において重要な環境であり製造の再現性において大切な要素です。前回では細胞以外の原料についてお話しをしましたが、本稿では工程資材と製品品質保証の相関について雑感を述べさせていただきます。
 工程資材とは、製品及び中間製品に直接あるいは間接的に接触し、無菌性の確保に影響を及ぼす資材で、原料に含まれないものを指しています.例えば、培養フラスコ、遠心チューブ、ピペット、チップ、フィルター、製品が直接接触する容器(1次容器)あるいは培地・培地添加成分の保存容器等が該当します。用語の由来として、GCTP省令で「資材」はラベルや添付書類等の製品を構成するものを指すため、経済産業省やAMED、日本再生医療学会における製造管理および品質管理に係るガイドライン作成では、両者を区別するために用いています。再生医療等製品製造における工程資材は、シングルユース品が多く、品質マネジメントにおいて厳格な変更管理が要求され、調達を含む購買管理が要求されるインプットのイメージが強いですが、それ以前に、工程設計における運用の効率化やスケールアップ、あるいはヒューマンエラーの低減など、工程手順や手順計画において重要な役割を有します。一方で、製品ごとの製造方法や操作手順が多様で生産規模が小さい本分野の製品設計においては、専用(製造用)の工程資材を開発することは容易ではありません。これらが商業生産以降の製造設計に影響を及ぼすと認識しています。


● 再生医療等製品の製造における工程資材の現状
 工程資材として用いる培養容器や遠心チューブ、ピペットなどは、多くの場合で、製品ごとに専用の設計を行わず、理化学用として販売されている器材が採用されます。製品の品質に影響を及ぼす可能性のある工程資材に理化学用器材を用いるのは、製品の研究開発段階において研究・開発者がこれを用いて細胞培養(製造手順開発~治験)を実施しているため、治験後からの製造方法およびその手順の変更が困難となり、そのままその手順を継承するためであると認識しています。また、使用する器材の種類が多いため、1つの製品の開発に対して複数の専用器材開発するのが困難なのも原因と考えます。培養用の工程資材は樹脂の射出成型品が多いため、金型設計を繰り返して完成品とするまでに時間がかかり、少量の試作も難しいため、予め研究開発段階より製造方法と並行して検討が進められない限り、商業生産を考慮して治験段階に合わせて準備することは難しいと考えます。そのため、専用の工程資材開発は後回しにされることが多いと認識しています。早期の製品化を目指し、なるべく短い開発期間で治験に入りたいという製品開発計画では、臨床開始前の段階で専用の培養容器を開発することは負担が大きいようです。
 他方、このような流れで理化学用器材を工程資材として採用することは、人の手で行う逐次の操作を前提とした一連の器材群を「製造工程設計の前提条件」としてしまうので、スケールアップや機械化に向けた手順変更の妥当性確保を著しく困難にする可能性が生じると考えています。また、器材とともに用いる理化学用機器は、操作の自由度が非常に高く、操作者の技量により取り扱いの精度が変わるものが存在するため、製造の再現性確保に影響が生じる場合もあります。そのため、工程資材に理化学用器材を採用する場合は、将来の工程手順変更(是正あるいは軽微変更)を想定し、予め商業生産時の製造方法と手順を考慮し、工程操作の工程特性を理解した上で検討を進める必要があると考えます。

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執筆者について

水谷 学

経歴

大阪大学 大学院工学研究科 講師。
1997年群馬大学大学院工学研究科博士後期課程を中退。国立循環器病センター研究所生体工学部にて生体適合性材料の研究を行った後、株式会社東海メディカルプロダクツにて循環器用カテーテルの開発および製造に関わる。2004年より株式会社セルシードにて再生医療に係る開発および品質保証を担当し、臨床用細胞加工物の工程設計や細胞培養加工施設の設計と運用を実施。東京女子医科大学での細胞シート製造装置開発を経て、2014年より現職。細胞製造システムの開発に従事。工学研究科の細胞製造コトづくり拠点において、細胞製造コトづくり講座(社会人教育)および標準化・規制対応に関わる共同研究を担当。

※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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