臨床現場の再生医療【第1回】

2018/07/20 再生医療

 再生医療関連法の整備とともに謳われた「再生医療の実用化」。その中で、実際多くの企業体の参入がなされつつある再生医療業界であるが、実際にこの技術を「医療」として提供する側である臨床現場の考え方・捉え方は、けして情報が多くない。そこで本稿では、現在の医療機関・臨床現場における「再生医療に対する考え方」を軸として、本邦の再生医療(等)の位置づけをゆるっと見渡してみた。できれば、肩の力を抜いてお目通しをいただきたい。
 
▽まず、再生医療を定義してみると
 さても、再生医療(Regenerative Medicine)というのはちょっと不思議な概念だ。
 前情報なしに素直に日本語を読めば、やはりその医療技術はなにかしらを「再生」させるのだろう、という気がする。特にこの国では、ES細胞、幹細胞を筆頭とした「万能細胞」という文言とともに再生医療が登場し、その後満を持したようにiPS細胞が輝かしく世におどり出たという経緯がある。当然、多くの人が再生医療というのは失われた人体の組織や機能を、人体のかけらから再生させる技術なのだとイメージしたことだろう。
 ではあるのだが、再生医療関連の「法」における「再生医療」の定義はというと、これが少し違う。安全性確保法第2条2項(ここでは、製品ではなく医療技術として論じるため、安全性確保法の条文から引用する)では、「人の身体の構造又は機能の再建、修復又は形成」あるいは「人の疾病の治療又は予防」を目的とした医療技術で、かつ「細胞加工物を用いるもの」(造血幹細胞移植等の特定の政令指定技術を除く)を用いた医療である。あえて分かりやすくまとめれば、およそ目的が上記2点ではないものを「医療」と呼ぶのははばかられるため、細胞加工物を用いる医療技術とすればコンパクトだろう。
 してみると、法的には特に「再生」は必要とされていないわけである。勿論、法による定義というのは一般用語とマッチするものばかりではないのだが、再生医療においては「再生」こそがコアな必須要素だろうと思いきや、ばっちり省かれている。目指すはあくまでも再生だが、現在の技術ではまだ再生とは呼べない!…というならまだしも、最初から再生を想定していない技術でも、細胞加工物を用いたら再生医療だという。善良な文系の方は困惑するかもしれない。
 それにしても「細胞加工物を用いる医療技術」である。これはどちらかというと英語で言うCell Therapy、細胞治療の概念に近くはないか。読んで字のごとし、細胞治療は細胞を用いた医療だ。細胞治療であるならば、再生を抜きにするのも道理。
 …いや、でもこれは、再生医療の話だったのだが。

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執筆者について

鮫島 葉月

経歴 一般社団法人免疫細胞療法実施研究会事務局、株式会社日本
バイオセラピー研究所 事業推進部部長
慶応義塾大学大学院医学研究科(修士)修了後、2008年株式会社セルシードに入社。再生医療に係る臨床用細胞加工物の開発および品質保証を担当し、当時の細胞培養加工施設の運用整備(GMP準拠)に携わる。2012年(株)日本バイオセラピー研究所に入社、再生医療関連法に同社を適応させ、特定細胞加工物の製造許可を取得。新規の製造施設設計と運用構築、文書策定等を行い、年間3000バッチ以上の特定細胞加工物を製造する細胞加工施設の施設管理責任者を担っている。
一般社団法人免疫細胞療法実施研究会においては、研究会事務局として、再生医療等を行おうとする医療機関向けに申請サポートデスクを運営。すでに200以上の計画策定を支援している。
また当該法人にはICTA特定認定再生医療等委員会を設置し、委員会事務局として再生医療等の審査対応を行っている。
※このプロフィールは掲載記事執筆時点での内容となります

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