医薬品工場に求められているHSE要件と事例【第55回】
国際化に対応する医薬品会社に必要なHSEとは?
「企業に求められる人権尊重方針のコミットメント」
1.製薬企業のあるべき姿
製薬企業の国際化が進む中、企業の多様化を配慮した製薬工場の各種取り組みが求められるようになってきました。日本国内外において製薬工場で働く日本人も外国人も夫々の工場で日々働いています。GMPは医薬品の品質を守り、患者様を守っています。一方、HSEは工場で働いている従業員の皆さんを守るべく、グローバルスタンダードの安全や健康被害リスクを低減するマネジメントシステムで運用されています。
近年、この健康被害のリスク低減は国際法によって企業のトップに「サプライチェーンを巻き込んで従業員を守りなさい」という意味の人権尊重方針のコミットメントを作成し、公開するよう求めています。具体的には各企業に人権Due Diligenceを実施してどのような課題が企業に存在しているかを綿密に分析し、優先順位の高い課題からリスク低減対策を実行する事で健康被害リスク低減を図らせようという物です。さて、製薬工場の従業員の皆さんがどのような健康被害リスクを抱えているかを客観的に申し上げると、医薬品原料がCMR物質や高活性医薬品原料が特に国際法やEU規制のReachで具体的に化学物質を特定しています。
人権尊重で求められている課題は範囲が広いのでほとんどが国外の課題ではないかという意識が働いていたと思います。国内でも分かり易いのはSDGsです。SDGs17のゴールは2030年に全てを持続可能な状態で達成しようと国連が働きかけていますが、このSDGsの本質は人権です。グローバルコンパクトの10原則、4分野の内1分野は人権です。国連の指導原則によると社会的に弱者の権利を差別的でない方法で実施されるべきである。と提言しています。これは日本でもセクハラ、パワハラ、カスハラなどハラスメントに対する基準が厳しくなり、すでに、内容次第で裁判により罰則規定が適応されていますので企業の中でも課題意識が高くなっていると思います。ところが上記のハラスメント対応ですら、まだまだ各企業のサプライチェーンを巻き込む活動が出来ている企業工場は少ないのが現状のようです。
あるべき姿は少なくとも、「会社Topの人権尊重方針と社長のコミットメントを公開し、サプライチェーンを巻き込んだ人権尊重管理をオープンに実行する」です。
これは、国際法である「ビジネスと人権に関する指導原則」に上記の要求事項が明記されています。この原則は企業の責任やその基盤を示して責任の所在を具体化する仕組みを形成しています。概要は以下のグラフで参照ください。
企業が分かり易い事例で取り組むべき人権問題をいかに事例提示しておきます。
大切なのはサプライチェーンを巻き込むこと
根拠は国連のグローバルコンパクトで4分野のうち1分野は人権
- 事例1 世界的スポーツ用品メーカー下請けの工場で強制労働、児童労働、低賃金(17セント)、劣悪な労働環境、長時間労働、性的暴行など・・・・企業は委託先の問題なので責任を回避出来ると表明したが、法的には責任を逃れる事は出来なかった。1.3兆円以上の損害額が発生
- 事例2 日本の芸能プロダクションにてタレントに性的加害により、企業として保証問題となり、社会的に処罰を受けた
- 事例3 世界的な日本の衣類メーカーの中国やカンボジアの委託先工場で低賃金、長時間労働、劣悪危険な労働環境、勝手な罰金制度が問題となり、世界的批判を受けた。しかし、その後、サプライチェーンの人権リスクに向き合い、人権デューデリジェンスを実施、リスク低減を行った。よい事例となった。
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